吾妻ひでお『失踪日記2 アル中病棟』を読む

失踪日記2 アル中病棟

失踪日記2 アル中病棟

 漫画の感想にはならない。自分と突き放して考えられない。かといって、おれが入院や通院を必要とするほどの重度のアルコール依存症や薬物依存症であったことはない。だが、しかし……。

 現在進行形ではなく、現在仮定併行中でアルコールへの誘惑は続いている。誘惑? いや、信頼というか、いざというときの、とっておきだ。アルコールさえ入れれば、その間はおれは不安ともおさらばできる、この憂き世とおさらばできる、その確信、安心。飲んだらパワーアップ、パワーアップどころか無敵のおれになれる、そう信じて疑わぬ。
 だが、おれは現在進行形で酒を一滴も入れていない。ベンゾジアゼピン依存症ならびにジプレキサ中毒がそうさせているのかもしれない。それはわからない。いずれにせよ、おれはアルコール依存症のための病棟に入るほど酒を飲んではいないし、おれのγ-GTPは16だ。
 さらに言えば、おれは双極性障害の疑いが強い(ジプレキサの処方から。名づけがたい精神疾患やもしれぬが)が、双極 I 型障害のような大きな躁エピソードを引き起こしたこともない。双極 II 型障害としてうつうつしているばかりだ。
 おれは中途半端ものだ。
 おれは中途半端ものだから、社会の底の方にいながら、完全に底ではない。おれは中途半端に小賢しく、中途半端に頭がおかしい。中途半端にアルコールが好きで好きで、かといって入院措置をとられるようなことはない。こんな中途半端な人間には自助によって社会の荒波を漕ぎきる力もないが、かといって、福祉やなにかの助けを借りるわけにもいかない。中途半端さゆえに自ら死ななければならない。それとも、アルコールに溺れた(本書「イントロダクション」の1コマ目、ワンカップの中でさらに酒を飲む著者!)すえに、アル中病棟へ行くことになるのだろうか? しかし、だれが金を出してくれるというのか。
 花輪和一刑務所の中』や、あるいはさまざまの獄中記、そして本書のような閉鎖的な? 病院(病院を刑務所と並べるのは不謹慎的かもしれないが、しかし本書でもたとえとして使われている)について。おれがそれに惹かれる理由は、そちらに……あえて言えば落ちていきたいという願望があるからだろう。妄想ばかり発達しているおれならば、不自由の中に自由を見つけられよう。しかし、願いはあれど希みはなし、それが人生というものか。
 最後にまた漫画の話をする。当然のことながら、病院や治療のシステム、そしてさまざまの人間模様は言うまでもなくおもしろい。が、それ以上に胸に刺さるのは、ふとした外の風景。いくつかの「外」の景色。開放感と不安がない混ぜになったようなそれに、やはりおれはぼんやりとした望みのようななにかを感じずにはおられないのだった。


神代植物公園深大寺あたりが出てきたっけ。

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