わが内なるヤンキー〜『ヤンキー文化論序説』を読んだ〜

ヤンキー文化論序説

ヤンキー文化論序説

おれとヤンキー

 にゃんぱすー。おれとヤンキーとの関わりは1920年代初頭のボルチモアに始まる。嘘だ。おれとヤンキーは縁がない。おれがヤンキーだった試しはないし、おれがヤンキー組織の一員だったこともないし、おれがヤンキー個人と付き合いがあったということもない。むしろ、「地元の中学校はヤンキーがいて荒れ気味だから中学受験しよう」と、そうとうに早い段階からそれを恐れ、逃げ出したたぐいの人間である。
 ただ、なんの法則というかわからぬが、友達の友達というレベルでヤンキーというのはある。なにせおれは湘南育ち、夜になると134から暴走族の音が聞こえてくるところだ。知ったのはけっこうあとになるのだが、小学校のころ好きだった女の子の弟が、暴走族の総長だった。弟が高校に入って、地元のヤンキー話みたいになったとき、話し相手から「○○(族の名前)の▼▼さん」というふうに名前が出てきたという。またしばらく経ってふと検索してみたら、2chアウトロー板で情報が引っかかったので間違いはないだろう。それにしてもあの▼▼くんが、と思ったことはある。身体は少し大きいが、お姉さん似のかわいい顔をした子だった。とはいえ、あの家のお父さんはリーゼントだったし、子供の名前もその当時でいえば洋風でキラキラネームに近いものだったっけ。

おれとヤンキー漫画

 かように、おれとヤンキーそのものは無縁に近い。ただ、ヤンキー漫画は好きだった。いや、好きなヤンキー漫画はあった。ただ、本書『ヤンキー文化論序説』で繰り返し名前が出てくる『ビー・バップ・ハイスクール』、『湘南爆走族』の世代ではない。もう少し下って、『ろくでなしBLUES』、『今日から俺は!!』、『カメレオン』、そして『湘南純愛組』。なぜか『特攻の拓』は入っていない。『ビー・バップ・ハイスクール』、『湘南爆走族』は読んだことがないのでわからないが、ヤンキー文化に対して斜に構えたコメディというものが基盤にあって、その上でヤンキー漫画らしい喧嘩にレースと、そんなふうに読んでいた。ヤンキー的であることにすでにパロディ性が内在しているとでもいうのかどうか。とくに『湘南純愛組』は地元が舞台ということもあって、単行本も買い集めていた。いや、上にあげた4作品はすべてそろえていたかもしれない。おれはヤンキーではなかった。おれは同級生から比べれば漫画オタクだった。都会でもなければロードサイドでもない、かといって田舎というにはどうも違うような、鎌倉とかいうところの、そんなガキだった。

おれのヤンキー指向

 だがしかし、おれの趣味の中にヤンキー指向がないというと嘘になる。前にも書いたが、おれはバイクのアンダーカウルが好きだ。Googleの画像検索で「アンダーカウル」など入力してしまうと、うっとりと眺めて止まらなくなるくらいだ。もしもおれがバイク乗りだったらすばらしいアンダーカウルを付けるに違いない(……と、ここまで書いて思ったが、あれって普通に空力的に意味あるのかしらん。まあ、ドレスアップということで)。ロケットカウルなどというのも、名前の響きなどすばらしい。それと、たまにビッグスクーターとかが車体の下をLEDで照らしてるのも好きだ(アンダーネオンというらしい)。もしもおれが自動車なんてものを手に入れたら、ぜったいに光らせるだろう。わくわくしながらその手のショップやらドンキに行くおれは容易に想像がつく。「文明」が、「生活に欠くべからざる合理性」であるとすれば、「文化」とは「生活に欠くべからざる非合理性である」(斎藤環らしいが、おれは余計なエアロパーツを求めてやまぬ人間だ。エアロパーツをつけるバイクも車も買えないが。
 あとはなんだろうか。おれの頭は金色じゃない。でも、今現在わりと赤い。耳に三つピアスつけてること。歩き方がチンピラ、スーツでちびのインテリヤクザ、寿町にある意味なじむその姿。毎日おんなじような地味なスーツとか考えられない。趣味の悪い古着、ずったらずったら歩く。自転車には妙にライトが多い。安全のため?
 ……どうもなんというのか、自分の中には抑えがたいバッド・テイスト嗜好がある。ナンシー関が日本人の五割とまでいった「潜在」ヤンキーじゃあないのかと思う。本書のいうところのヤンキー・バロック。ひょっとしたらマニエリスムまで突き抜けってるようなもの。そういうものに悪い感じを抱かない。シンプルでスマートなのは居心地が悪い。おれは自分のiMacのリンゴマークの上にDELLのロゴを貼り付けている。横尾忠則なら旭日旗が好きだ。
 

ヤンキーの今後

 この写真は本書を読んでいたときに、たまたまテレビに映っていたのを記録したものだが、2013年の終わりも「ヤンキー」という言葉は健在だ。ただ、狭義の、昔ながらの暴走族的な、地域社会のアナザーサイド(別の側面)としての、年齢階梯制をベースにした不良集団(宮台真司ちゅうもんは、もう無くなっているのかもしれない。よくわからない。いや、無くなっちゃいない。

 逮捕容疑は7月28日未明、東京都大田区内の路上で、コルク製のヘルメットを被ってバイクを運転していた埼玉県志木市の解体工の少年(17)ら2人に「誰に許可を取ってコルクを被っているんだ。地元じゃいいかもしれないが、大田区ではだめだ」などと因縁をつけ、バイクやヘルメットを脅し取ったなどとしている。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131030/crm13103013500011-n1.htm

 ……などなど。とはいえ、若者のバイク離れというか、暴走族ですらバイクが買えるのに、おれときたらというのはともかく、「アナザーサイド」から職人的な道が卒業後にあるというルートが崩壊しているという話だし。そっから、『国道20号線』が……あるのだろうか。よくわからない。もっと生々しく、ラーメンが獣臭い、『ウシジマくん』のような世界か。
 ところで、「○○(族の名前)の▼▼さん」がその後どうなったかは知ってる。新聞の折込チラシで知った。大手不動産だったかリフォーム会社だかのエリア・マネージャーだかなんだかとして、顔と名前付きで出ていたのだ。すぐに写真撮って弟に送った。たいしたものだ。暴走族の頭になるなら、そのくらいにのし上がれるのだろう。おれはといえば、この通りのもので、食うや食わずで社会の地べたに近いところを這っている。やっぱ根性足りねえからかなぁと思ったりもしているが、まあどうでもいい。30代も後半になりつつなんらかのバッド・テイストに憧れを抱きつつずったらずったら歩くくれえのことですわ。おしまい。

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……この本に暴走族って出てたっけ?

……都築響一曰く「ヤンキーは死なない」。B-BOYをヤンキーに含めるかどうか、どうなのかしらん。こっちの本では、暴走族は音楽文化を作れなかった的なことを言ってたような気もするが、どうだったか。確かめたい。確かめられない。図書館で本を借りるという屈辱。