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『アンダーワールドUSA』はシリーズ前二作に比べてやや趣が違う。うまく説明はできない。できたら文芸評論家にでもなっている。ただひたすらの悪人どもの世界から、本作は人間の心情にシフトしている。もちろん、登場人物のだれもがいつも薬をアルコールで流し込み、うっかりハメられて小便や大便を垂れ流してぶっ殺されるのかわかりはしない。その緊張感はある。あっさり加減はむしろ強まっているかもしれない。固定された三人の語り部すらご用心。
ジョン・F・ケネディ暗殺、キング牧師暗殺、ロバート・ケネディ暗殺。歴史的な大事件は過ぎ去った。ジョン・エドガー・フーヴァーは老いる。アンフェタミン漬けの変態。しかし、油断ならない。イタリア人マフィアたち。南の国でのカジノづくり。南の国。ドミニカ、ハイチ。独裁、そしてブードゥー教。
ブードゥー教とそのドラッグ。向こうのSFなど読んでいてもときに入り込んでくるブードゥー教。このカルチャーとの距離感、これはわからない。わからないが、暗黒を彩るには十分か。
政治権力、人種差別、ヘロイン、金儲け、強請、殺人、何かを失ったものが強迫的にそれを追い求める。誰が誰を知っているか。誰が誰をしゃぶっていたか。幾重ものラインが引かれ、交差し、逸れ、物語は収縮していく。二作品分、あるいは六千作品分。スタッカートの文体は読むものに速さを与える。与えない。「おれはなにか奇書を読まされているんじゃないか」。「アンダーワールドUSA三部作」、読み終えての正直な感想。ニュースになっている大病院グループのボスがハワード・ヒューズに見える。気のせいだ。
本作に戻る。新しい語り部。覗き屋の若造、クラッチ。お気楽な探偵見習いが、気づいたらキューバ人の頭皮を剥いだりするはめに。訳者あとがきにあるようにエルロイ本人が投影されているのだろう。投影。年上の女へのこだわり。老いていく女への愛、女の愛。
『アメリカン・タブロイド』、語り手の一人。われらが最強のビッグ・ピート。あれがロイド・ホプキンズとするならば、などと思わなくもない。やがて行き着く一本の赤旗となるのか。とはいえ、勝てないやつがいない、ものがある。そう思える。いや、それを含めてすべての悪党どもに祝福を。そして、三作品を生き抜いた小狡いやつらに祝福を。
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