- 作者: 都築響一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/04/07
- メディア: 文庫
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夜の国道を走る。ヘッドライトに照らされた歩道橋に、スプレーで殴り書きされた「夜露死苦」の文字が一瞬浮かび上がり、頭上に消えていく。
なんてシャープな四文字言葉なんだろう。過去数十年の日本現代詩の中で、「夜露死苦」を超えるリアルなフレーズを、ひとりでも書けた詩人がいただろうか。
「はじめに」
『夜露死苦現代詩』とは関係ない話をする。おれの文章の基礎にあるのは東海林さだおだ。いくらか日本語を読めるようになったおれに、かつて雑誌編集者を生業としていた父が与えたのが東海林さだおのコラムだったのだ。
その中に、スポーツ紙の求人広告をテーマにしたコラムがあった。限られたスペースで、広告主が、あるいは代理店の人間が、必要な情報を、あるいは必要以上の情報をいかに苦心して詰め込もうとしているか。それを鑑賞するような内容だった。おれはそれにけっこうな衝撃を受けた。言葉には、文章には、こんな見方があるのかと。それ以来、小学生のくせに毎朝スポニチ(のちに日刊スポーツ)の求人欄に目を通すのが習慣になったくらいだ。
上に引用した都築響一の言葉。あるいは暴走族の特攻服をしてこう述べるのに比べると、いささか『VOW』じみた楽しみではあったかもしれない。
この世の中に「詩人」と人から呼ばれ、みずから呼ぶ人間がどれくらいいるのか、僕は知らない。けれど、その職業詩人たちのうちで、自分の会心の作を上着に刺繍して、それを羽織って町を歩けるやつがいるだろうか。自慢の一行を背中にしょって、命のやりとりにでかけられるやつがいるだろうか。
「仏恥義理で愛羅武勇 あるいは暴走する刺繍の詩集」
リアルな言葉とワックな言葉を分けるものはなんだろうか。あいにくおれは現代文学とか現代詩とかさっぱり知らないので都築響一が言ってることが正しいかどうかわからない。ただ、ここで都築響一が「夜露死苦」にリアルななにかを見ているのは疑わない。そしておれも、ろくに知らないくせに、小難しげな文学や詩よりも、よくわからないなにかのなかになにかあるんじゃないかと、そんなふうに思いながら生きている。寿町の電柱に貼られたテプラ、図書館で借りた本に挟まっていたメモ、インターネットにあんたが書き付けた言葉、あるいは、明け方の街、桜木町に? いいや人生八王子。おれは八王子に行ったことがない。
この本ではほかにも痴呆系の言葉、点取り占い(おれは駄菓子屋に通った世代だが、この文化はネットを通じて初めて知った)、餓死した母子の母が遺した日記、死刑囚の俳句、見世物小屋の口上……さまざまな言葉、放っておいたら失われてしまうような言葉が採り上げられている。一方で、あいだみつをも採り上げられている。そこが面白い。正統らしきものからは黙殺されるものとして、同じ地平に置かれている。そしてアメリカの、日本のヒップホッパー。
一点突破した言葉がどこからどう生まれるのか。統合失調症の詩人のワード・サラダの中にだって生まれる。その人は若いころに詩を書き、年をとり、投薬治療の向上で書かなくなった。書けなくなった。著者は「残念といえば残念」と書く。3歳のころにすばらしい馬の絵を描いたサヴァンのナディア。いくつかのコミュニケーションのための言語と引き換えに、その力を失った。その是非や。そんな話も頭をよぎる。
まあそんなことはどうでもよろしい。おれは、どうなのだ。そうだ、おれだってリアルな言葉を叩き込みたい。クールな一撃をぶっぱなしたい。そのためにLogicoolの安いキーを叩く。ダイアリーだか日記だかわからないものを公開する。あとに残るのは後悔。書いた瞬間に嘘になるのがわかっている。まがい物の山。せめて、その山の中に、ラッキーパンチのひとつでもあればいい。そう願って、今日も、明日も、明後日も……。
>゜))彡>゜))彡>゜))彡
- 作者: 都築響一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/01/01
- メディア: 単行本
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あとは獄中のなにかが好きだな。極限状態の人間が書くものには、やはりなにかがあるというか……。
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追記:本書で紹介されている死刑囚の句にすごいのがあったんだった。
綱
よごすまじく首拭く
寒の水