無類大戦艦客船ベリー・ベリー・エリザベスベス222世&キング・ジョージ6世S号の最期

鎌倉幕府が滅亡してからこのかた……公暁のやつも最近じゃ「くぎょう」と呼ばれてるらしいが……おれは毎日、無類大戦艦客船ベリー・ベリー・エリザベスベス222世&キング・ジョージ6世ステークス号のオールを漕いでいる……船底で、虱の天国、いやらしい漕ぎ頭、食事は一日に白菜のスープ1杯と固い黒パンひとちぎり……、ゲロで脚を滑らせたらおしまいだ。そんなおれたちに行き先なんて関係ない……が、お高いマストがぶつからないように……どこぞの橋をくぐると……か。いや、行き先は告げられていたんだ、横浜とかいう……嫌な予感……。今から思えば……罠だったんだ。おれたちには事態なんかわかりゃしねえ……「全速!」と言われれば全速で漕ぎ、「後退!」と言われたら後退するように漕ぐだけだ……覚えたてのガキがマスをかきまくるみてえに……そればっかり繰り返した……橋とやらに近づくと、普段は姿を見せねえ航海士の下っ端みたいのが来て、細かい操船指示を出しはじめて……そのときだった、船体が前につんのめるのがわかった。ちょっとしたつんのめり方なんかじゃなかった、将棋倒しってやつさ……前のやつはその前のやつ、その前のやつはその前の前のやつに折り重なって、オールもむちゃくちゃになった。おれは一本のオールに必死にしがみついて……圧死体になることは避けたが……バガーン!……お次は大爆発、炎上、炎と煙がありとあらゆるところから襲いかかる。おれは必死に上を目指した。どこが上だかもわかりゃしねえ……ただ、この幕府もおしまいだっておれにはわかったんだ。船は傾くどころか水面に対して垂直んなっておっ立っててた。ばかみたいな光景……おれはなにかの構造体の上に立って一息つく。そして見回す……そうしたらいやがる、いやがる、戦艦日本丸と戦艦氷川丸がこっちに向けて41cm砲をぶっ放しているじゃないの……横浜はあてにならねえ……大船駅だって、鎌倉のものだったんだ、全部。やつら最初から、この船をぶっ潰すつもりだった。ドドドドガーン! おれは爆音の中、わけもわからず、なにかにしがみついて、ぶら下がって、ともかく落ちないように……

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「……将軍、将軍、昔話はいいですから、今の世界情勢はいかがお考えですか? ウクライナ情勢」

「なんだ、き、きさま、わしの、豊葦原千五百秋瑞穂国将軍の、貴重な、話を聞けんというのか! まあいい、わしの御託が聞きたいか。わしが思うに、これからは日露中同盟の時代である。やがては、米国・EUとの戦争が起こる。若人! 若人はそれに備えねばならぬ! だから、ロシア語の習得に励まねばならん! 言葉が通じねば戦にならぬ。中国人とは筆談で行えばよし! Пожалуйста хлеб. Я голоден. わかるかね! そして、手に手を取り合って、黒船襲来千五百年の恨みを晴らす。これぞ大和男子の生きる道である。黒船さえこなんだら、まだ、鎌倉が幕府として……」

「はい、ありがとうございます、将軍閣下。それではそこのスーパーで買った半額弁当です。二つありますから、明日も食べてくださいな。それではおやすみなさい、将軍……」