さて、帰るか

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まるでタフじゃないやつ。家の中にいたい、布団の中にくるまっていたいやつ。おまけに脳みそが悪いやつ。それでも外に出なければならないやつ、餌にありつくために日銭を稼がなくてはならないやつ。吐き気がする、胃が痛い、左の脇腹も痛い。反射板の妖精が右に左に奇妙な図形を描く。世界が曇っていて、即座に入院が必要だってだれかに言ってほしい。その間にコンビニを訪れた人間は22人、何も買わずに出て行ったやつは3人。人数が政治を作る。われわれは政治の中にある。起こったことを実証せよ。時間に追いつくことはできない。クエスチョン、思い浮かんだときには遅いんだ。りっしんべんに死と書いてなんと読もう。ミネルヴァのフクロウが飛び立とうとしている。野暮な鉄砲で一発だ。「そこのスクーター、脇に寄りなさい」。パトカーにはこう書いてある。「息子はサギ」。息子は22年前に孵化した。ドラフト2位で在京球団に指名されるも、4年で見切りをつけられた。軽トラックの荷台にネコが飛び乗る。軽トラックの荷台の下にネコが飛び乗る。おれはその軽トラックが走り去るところを見ていない。翌朝、その場にネコの死骸もなければ血の跡もなかった。血の雨が降るとしたら、神様を切り刻んだやつがいる。クロネコヤマトのカートがアスファルトを切りつける。俺宛の荷物はなにもない。気温は下がる一方。今年の秋は新しい服を買わなかった。今年の冬も新しい服を買わないだろう。同じ服を着た幽霊がさまよっている。見かけたらビールをおごってくれ。アルコールで胃を洗浄する必要があるんだ。気持ちが大事なんだ、なんてこたない、人の世界も幽霊の世界も同じようなもんだよ。いくつかの図形が左右から転がって来て、どの角とどの角がぶつかるか見てたんだ。何時間も見ていたんだ。長い長いセックスだった。世間で言うセックスじゃなかったかもしれない。「こちらを上に」ってテープ貼られて、おれも出荷されていく。バーコードが読まれる。電子音が鳴る。おれはもうデータベースの中にある。期待に胸踊らせて、胃がむかむかする。家の中にいるべきだし、布団の中にくるまっているべきだった。学者になる学問は容易であるが、無学になる学問は困難である。勝先生、孵化したときからずっと布団にくるまっていれば、あえて困難な目に遭うこともなかったんじゃないでしょうか。少年野球のころから叩きこまれてきたこと。少年野球のころから知っていたルールの裏道。躊躇なく背中に投げられる決断力。キャッチャーを調子に乗せちゃいけないんだ。だいたいの世界でそうなんだ。たいていの人間は同じ方向を向いていて、一匹だけ逆方向を向いているオットセイ野郎がいる。キャッチャーっていうのはそういう人種だ。ライ麦畑の中でも逆向きだからキャッチできるんだ。そう、カウントを取るためのフォークと、空振りを奪うためのフォーク、どっちだって逸らさない。信頼関係が大切だってお巡りさんだって言ってたぜ。「息子はサギ」。ならば父もサギ、母もサギ、シベリアに飛び去って帰らない。この国にはもう、大きな鳥が棲むような場所は無くなっちまった。どこもかしこもショッピングモールの廃墟と、ドリームランドの廃墟ばかり。昔は大きなセックスだって釣れたもんだがね。古老はそう語ると釣り竿をしまい、ボロボロになったアサヒ芸能を片手に家路に着いた。荷台にネコを載せた軽トラックに轢かれて死んだ。