それでもおれはマクドナルドを愛している


 おれの中にあるマクドナルドのハンバーガーの最初の価格は1個210円だ。おれの中にある最初のマクドナルドは藤沢の東急ハンズの近くにあった。ときどき食べられるマクドナルドは、同じくときどき食べるカップラーメンと同じく、なぜかなんらかの背徳感ともに、おれの口を、胃袋をジャンク・フードらしく満たしてくれた。マクドナルドはほかのハンバーガー・ショップとは異なる「マクドナルド」だった。だれかにとって「吉野家」がほかの牛丼屋とはべつの存在であるように。だが、おれの一番好きなハンバーガーはファーストキッチンのベーコンエッグバーガーだ。得てしてそういうものだ。
 そのマクドナルドも時を経て、時代の方向性に迎合したり離れてみたり、評価されたり見下されたりしてきた。マクドナルドはいちいち話題になるくらい巨大な存在だ。おれにとっては、ポテトの塩加減の方が重要なのだが。
 さて、今現在のマクドナルドのキャンペーンはアメリカン・ヴィンテージである。

 おれは「ダイナー・ハニー・マスタード」が食いたいと、そう思った。おれは料理の中のハニーが好きだ。おれはハニーを愛している。高くつくのは承知で「クラシック・フライwithチーズ」のセットを頼んだ。コーヒーはブラックで。
 いけるじゃないか、と思ったのは、悪意ある写りになってしまった「クラシック・フライ」だった。チーズのいかにもな味わいが悪くない。フォークがついてくるので手も汚れない。塩辛すぎることもない。「ダイナー・ハニー・マスタード」はといえば、もっとマスタードとハニーが多ければと思った。ただし、多ければソースが垂れてきて食いにくくなるだろう。まあいい、いずれにせよ「withチーズ」だけ30円くらいで売ったらどうだろうか。普通のハンバーガーに塗って食うのは悪くなさそうだ。チーズ・バーガーよりはうまいだろう。
 ところで、カウンターにはメニューが復活していた。となりの注文者が「ダブルバーガーのセット」というのを、店員が「こちらのダブルビーフですか?」と示唆すると、「そうそう、それ」という。やっぱりこればかりはあった方がいいんじゃないのか。そんなことも思った。おれによし、おまえによし。それだけの話。