毒ガス開発の父ハーバー 愛国心を裏切られた科学者 (朝日選書 834)
- 作者: 宮田親平
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/11/09
- メディア: 単行本
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わりと読み応えある。空中窒素固定法を確立させて人類の食糧問題に大きな役割を果たしてノーベル賞を受賞する一方で、「毒ガス開発の父」とも呼ばれ、それに批判的だった妻に自殺され(一年半後には再婚し)、皮肉にも第二次世界大戦中には自ら生み出したチクロンBで同じユダヤ人たちが虐殺される。その出自ゆえに祖国のために尽くそうとして、裏切られた、そういう男である。Wikipediaに書かれていないことといえば、日本の星一との関係(結局星の援助によって後のマンハッタン計画従事者を生み出しているから、これも皮肉な話だ)、そして日本への毒ガス知識の伝達の話、そして第一次世界大戦後に海水からの金抽出に失敗したことくらいであろうか。
まあ、そんなわけで、Wikipediaでも十分読み応えある人間の伝記である。本書も読み応えあるかどうかというと、まああるんじゃないかというくらいだろうか。なにせ題材の本人がでかすぎて取り扱い大変なのだ。あとはなんだろうか、理系不得手のおれがすらすら読めてしまったのだから、さまざまの科学的業績について記述が不十分という可能性もある。
とはいえ、科学者というものが戦争という局面でどう振る舞うべきかというあたりについては、考えさせられる。ハーバーが言ったとされる言葉。
「科学者は平和時には世界に属するが、戦争時には祖国に所属する」
「科学に国境はないが、科学者には祖国がある」
そしてアインシュタインがハーバーに言ったというエピソード。
「君は傑出した科学的才能を大量殺戮のために使っている」
などなど。
とはいえ、毒ガス開発も戦争の早期終結のため、より犠牲者を少なくするためという発想で生み出されたものではある。あるが、それはたとえば空爆の父ジュリオ・ドゥーエが「長期的に見れば流血をすくなくするので、このような未来戦ははるかに人道的だ」と空爆について述べた(『空爆の歴史―終わらない大量虐殺』を読む - 関内関外日記(跡地))のと似ているだろう。結局は、早期終結にもなりはしないし、やられたらやりかえされるだけだ。それが兵器というものだ。よくしらないが、アメリカの無人兵器だってそのうちしっぺ返しを食らうだろう。それに、武器は使用されるためにあるのだ。抑止にもならない。そこんところなんだ、たぶん。わかんねーけどさ。
>゜))彡>゜))彡>゜))彡
↑この本で本書がちらっと紹介されていたので手にとった。