『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』を観る

 おれはコーエン兄弟の映画が好きだ。だからといってすべて好きなわけではない。アメリカ音楽のルーツがテーマの一つになっている『オー・ブラザー!』あたりは、正直どうも、といったところだ。さて、フォーク・ミュージックがテーマとなっている本作はどうだったか。後部座席のジョン・グッドマンよろしく心地よい眠りに誘われ……眠りはしなかった。ただ、ちょっぴりウトウトした。ウトウトするくらいがちょうどいい映画なのかもしれない。そう思うことにしようか。
 主人公ルーウィン・デイヴィスは家無しのフォークシンガー。ある意味でアメリカの敗者。眠る家はないし、手を出した女性は妊娠するし(この女性が主人公をけちょんけちょんに罵るのはすごかった)、音楽を諦めようとすればそれはそれでうまくいかず……、なぜか猫をかかえるはめになって長い一週間を過ごす。
 劇的であって劇的でない。しかし、実際に演奏したのを撮ったという音楽はどれもすばらしい。笑いどころもある。おれとしては「プ、プ、プレジデント……」の収録シーンのアル・コーディが面白くてならなかった。まあ、ほかにもぱらぱらと。ただ、全体的には暗いトーンの画面で、閉塞した感じの中をもがいていくような。「金のにおいがしない映画だ」とまではいかないが……。
 たとえば、おれがもっと60年代アメリカ音楽に詳しければ話は違ったかもしれない、とも言える。たぶん、そうなのだろう。ただ、それを言っちゃあおしまいよという気もしてどうにも。さすがにいろいろの賞を獲っただけあって(おれは権威主義者なので)、まったくのクソ駄作、というわけはないのだろうが、やや物足りなさを感じた。『オー・ブラザー!』と同じような。オー。まあ、そんなところだ。

インサイド・ルーウィン・デイヴィス

インサイド・ルーウィン・デイヴィス

……音楽はよかったと思うでよ。
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