『11ぴきのねこと馬場のぼるの世界展』(八王子市夢美術館)へ行く


 おれのことばの世界が形作られた最初期。なにが影響したのか。おれは「いしいひさいち」と「東海林さだお」と「ドラえもん」の影響がとても大きかったと思っている。が、しかしおれは「11ぴきのねこ」のことをすっかり忘れていた。言葉より前の世界と言葉のある世界の端境期にそれはあった。あるいは、親がおれに初めて与えた物語、言葉だったのかもしれない。おれは「11ぴきのねこ」をあらためて愛おしく思う。
 『11ぴきのねこ馬場のぼるの世界展』は入場料500円。八王子の小さな美術館で開催されている。知ったのはたまたまだ。だが、行ってよかった。リトグラフの原画におれの原初の物語があった。けっしてほのぼのとしてもいないし、教訓的でもない、という馬場のぼるの世界があった。11ぴきのねこたち。なかにはおれの知らない一編もあって1から読むことができた。今さらにしてすばらしい。あるいは、おれという人生の落伍者を生み出してしまった気楽さがそこにあるとしても。
 『11ぴきのねこ』以外の展示物も興味深いものが多かった。とくに学生時代の学校のノートなどがすごい。物理かなにかだと思うが、落書きがすでに学習まんがあるいは学習参考書の挿絵の域なのである。天才というものは、こういうものかと思わずにはおられない。また、あまり知ることのなかった昭和サラリーマン4コマ漫画などもあって、おれはたいへんによろこんだ。
 馬場のぼるは特攻隊訓練をしていた生き残りだ。人間の生と死の極限に近いところまでいったことのある人間だ。そういう人間が見た人間世界、子供に伝えたいこと……そのあたりまで踏み込むような展覧会じゃあない(そもそも子供向きといってもいい)。とはいえ、おれはそこを思わずにもいられなかった。善も悪もはっきりした形を取らず……シニカルというと言い過ぎか。とはいえ、すべてを包み込むあたたかさもある世界。そんな世界があった。

 最後に、なんだ、忘れていた人間が言うのもなんだが、いろいろのキャラクターグッズがこの世にはあるけれど、「11ぴきのねこ」は忘れられがちじゃないかい? と思った。Tシャツも売っていたが子供サイズだけだった。サイトでは大人サイズもあるというので帰り道iPhoneで見てみれば婦人用だった。おっさんが着ちゃいかんのか? というか、外来種やキティさん、リラックマなどに勝てるポテンシャルはある。もっといろいろ出してはくれんかね。おれが買ったのはケース入り金平糖。というかケースが欲しかった。この中に持ち歩く精神薬や整腸剤を入れる。夢のある話だ。おしまい。

11ぴきのねこ

11ぴきのねこ

11ぴきのねことへんなねこ (11ぴきのねこシリーズ)

11ぴきのねことへんなねこ (11ぴきのねこシリーズ)

11ぴきのねことあほうどり

11ぴきのねことあほうどり