ジャングルでも同じこと言えんの? 『アギーレ/神の怒り』を観る

 サッカー日本代表監督にハビエル・アギーレ氏が就任したさいに、「アギーレという映画を思い出す」というようなコメントを目にした。女もそんなことを言っていた。観るなら今だ! ということで、観た。
 舞台はスペインが大航海でコンキスタドールでメキシコがエル・ドラドを探せ! の時代。そのエル・ドラド(黄金郷)探し隊がジャングルで行き詰まって、隊長が「別動隊40人がイカダで1週間エル・ドラド探して来い。帰ってこなかったら全滅ってことで」みたいなこと言うの。で、アギーレはその別動隊40人の副隊長。ここから、悲惨なジャングル・クルーズが始まる……。
 最初はだんだん狂っていく小集団の中で、アギーレ(wikipedia:クラウス・キンスキーは怪優というにふさわしい)を頂点とした小カルト集団のようになり、女なんかも絡んできて……というのを予想したのだが、「そんな心理劇、ジャングルでも同じこと言えんの?」とばかりに、主に川下りの映画なのだよ、これが。隊長の貴族を皇帝に、スペインに反逆を宣言したりとかはあるけど、ともかく川下りなんだ。
 で、川下りのイカダといってもわりと規模が大きくて、小屋はあるし、トイレもある。馬まで乗ってる。これが、アマゾン(?)の激流を下っていく。現地ロケらしいのでガチ。向こう岸の崖のあたりに取り残されたイカダとか、もう本当に流されて動けなくなってるようにしか見えない。途中からドキュメンタリかよ? という気にすらなってくる。小屋の天井が樹にぶつかるぞーってシーンとかも、その場で決めたろとか思ったり、兵士の指に蝶が止まったシーンとかも、偶然撮れちゃったんじゃないのとか思ったり。それでいて、高い木の上のに帆船が引っかかってる幻想的なシーンがあって……。取り残された馬とか、妙に絵になる場面が多い。
 そんでまあ、エル・ドラドなんて簡単にあらわれなくて、セデック族現居民から毒矢が飛んできたり、食べ物も塩もなくなっていったり……そんだけといえばそんだけなんだよ。それゆえに、スッと女が森に消えていくところとか活きてくるのかもしれんけどさ。それに、そんな情況にありながらも集団というやつがあくまで身分を維持し(しなくなって反逆する可能性もあるけど)、帝国ごっこをやってるあたりの、人間の虚しさというもんが浮き彫りになるってのもあるかな。あと、現居民が馬と黒人の肌を恐れる(だから一人黒人奴隷を連れている)のは本当かしらん。
 そんなところか。いや、なにか妙な後味を残す映画よ。全体的にこう、リアリズムの追求かわからんが、たとえば奴隷にした現居民に笛を吹かせたりすんだけど、かすれるような音がわずかに響くくらいのもんでさ、これを聴かせようとすんならもっと音出てるの使うだろう、とか思ってね。でもまあその、ドイツ映画だから全編ドイツ語で、なんとなくドイツ語は似合ってねえなあとかは思った。とはいえ、おれはスペイン語の映画とか観たことあるかどうか怪しいから、「やっぱスペイン語だよね」とも言えんのだけれども。まあそんで、クラウス・キンスキーの作品、となるとこの監督の作品が多くなるのかもしらんが、もういくつか観てみようかなどと思うのであった。おしまい。

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