ヒグマ最強説! 増田俊也『シャトゥーン ヒグマの森』を読む

シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫)

シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫)

「ほんとだ……対ライオン九戦全勝。ライオンをまるでネズミを潰すように撲殺したって書いてあります。サーカス団での事故ではトラをやはり撲殺しています。シベリアでは動物学者が野生のヒグマとトラの戦いを見たそうですが、トラが飛びかかるのをヒグマが無造作に叩くとトラの首がちぎれてしまったそうです。ヒョウ五頭と檻に入れられた時も二十秒で全部を叩き殺してしまったと。これでは人間は敵わない……」

 おまけに100mを6秒から7秒で走り、体重は350キロ以上あり、マイクロバスをひっくり返し、さらには自らの足跡を再び踏みバックし横に隠れる「止め足」などの頭脳戦も仕掛けてくる。所有欲も強く、横取りされたと思った獲物は執念深く取り返しに来る。人間の肉の味を覚えたヒグマは人間を狙うようになるから、必ず殺さなければならない……!
 と、「史上最強の生物は何か?」という話になったら、ゾウだのサイだのではなく、「ヒグマだ!」と言いたくなるような作品と言える。そしてこの作者は『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』を書いた人間である。この作品で展開される「ヒグマ最強説」を読むと、グイグイと「木村政彦最強じゃね?」と思わされる、あの感覚が蘇るのだ。強い。
 というわけで、孤立した人間対ヒグマの……アニマルパニックミステリーもの? である本作。冒頭の1/4くらいから「これもう人間、死ぬしかないじゃない」というくらいの追い詰められっぷり、ぶっ殺されっぷりである。「まだ半分もあるのにこんな状態でどうするの?」というくらいの気持ちになる。でも、一気に読ませれれる。やはり強い。
 どこらへんが強いかというと、著者のヒグマ最強説感ばかりではない。北海道の自然環境についての知識と、おそらくは身をもって知っている体験からくるベースがある。その背景があって、人間が動く。人間にもモデルがいるんじゃあなかろうかと思わせる。足腰がしっかりしていて、技を繰り出してくる感じだ。単なるパニックもので終わらせない広がりと深みがある。もちろん、パニックがすげえのは言うまでもない。
 そんなわけで、『羆嵐』以来のヒグマ小説を読んだわけだが、満足の一作。これも読むべし、と。

>゜))彡>゜))彡>゜))彡

羆嵐(新潮文庫)

羆嵐(新潮文庫)

……これを読んだのはもう20年も前になり、内容を覚えてるわけじゃあないえけれども、人に薦められるすげえ本、ということでは揺るぎない。