薬局にて

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「飲むのはジンとかウオッカですね。ありきたりな話ですけど、アルコール度数とお金のことを考えるとハードリカーにいっちゃうもんで」とおれ。「ぼくはね、知ってると思うけど産業医もやってて、ウオッカでだめになっちゃう人いるのよ。ロシア人の平均寿命短いのご存知でしょう。お酒、頭ではわかってると思うけど、やめてくださいよ。せっかく薬飲んでるんだし」と医者。「善処できればいいんですがね。やっぱりアルコール依存症ですかね」とおれ。「いや、量とかが問題じゃないの。異常行動とかそういうね」と医者。「ああ、行動に出るかどうかなんですね」とおれ。「それじゃあ」。精神科から処方箋薬局。客はおれ一人。あとから年かさの女が一人。女はおれの斜め前のソファに座る。おれはテレビに映し出されるNHKの時代劇の再放送を見ている。見ているようで見ていない。ふと女の妙な動きが目に入る。いつかの山内泰幸のピッチング・フォーム? 見れば、薬局に置いてあった女性誌のストレッチ特集を見ながら実践しているじゃあないか。U.F.O.。おれは花粉症予防のマスクの下で自分の口が歪むのを感じる。そこまでなら耐えられた。が、つぎに女はやおらソファに寝そべると、ひねりを加えながらの腹筋運動を始めやがる。おれは耐えきれずに顔をそらし、空咳で笑いを打ち消した。このときばかりは、デジタル万引きでもなんでもしていいから、ここでやるのはやめてくれと願った。そこでおれの名前が呼ばれる。レキソタンを余らせているので今月は一日一錠になった。「こちら数が減りましたが」と薬剤師。「数合わせで」とおれ。毎月にくらべていくらか薬代が浮いたことになる。とっとと薬局を出たおれは、浮いた薬代を念頭にコンビニでコーヒーを買った。甘いやつを買った。買って会社に帰った。それにしてもあのストレッチ、肩こりには効くのだろうか? 精神病には効かないだろうが。