塩を舐めて焼酎をあおる

 

 夕方の五時くらいから妙に腹が減っていた。腹が減ってしょうがなかった。安アパートに帰ってお好み焼きを作るのもしんどいくらいの空腹だった。

コンビニに寄ってなにか軽く腹に入れるものでも買おうかと思った。思ったが、雨も降っていたし、財布の中身が心もとないので寄らずに帰った。

おれにもう少し金があったら、もっといろいろの選択肢があったことだろう。チェーンの牛丼屋なりハンバーガー屋なりで晩飯を済ませてしまうこともできただろう。さらにもう少し金があったら、トルコ料理屋なり焼き鳥屋なりに入って、空腹を満たしつつ酒を飲むことだってできたろう。

現実に帰宅してみると、やはりちょっと小腹に入れるものはなかった。おれは長年の修練により無駄な動きなく自分ひとりのためのお好み焼きをつくれるようにはなっていたが、その気力すらない。

が、酒ならある。もったいないのでめったに飲まないアードベッグが瓶に3/4くらい。安くて手に入りやすくてコストパフォーマンスのよいギルビーのジンが瓶に2/3くらい。愛すべきキャプテン・モルガン・スパイストラムが未開封、そしてセブン−イレブンブランドの本格麦焼酎が3/4。さて、どうする。

おれは紙パックの焼酎を選んだ。麦というあたりがペコちゃんな腹に良いような気がしたのである。一応は本格焼酎だ。乙類だ。おれはいくら安くても甲類は飲まない。どんな酒も割って飲むのを好まないからだ。そのくらいの矜持はある。そしておれはつまみを必要としない。ただ酔いたいだけだからだ。アルコールだけがぶがぶ君だ(おれはがぶがぶ君の実物を見たことがない。地域的なものだろうか)とはいえ、たまに冷蔵庫にKIRIのクリームチーズが入っていることはある。夏にはセブン−イレブンのチョコミントバーが入っている(世の中にはチョコミントが少なすぎる)。だが、今は切らしていた。

そこでおれは、ぐい呑みで2杯焼酎を腹に入れて(25度しかないのに喉から内臓まで焼けるようだ)、塩を舐めてみることにした。塩を肴に酒を飲む。どこかで見聞きしたような気がする話である。塩を舐める。しょっぱい。焼酎を飲む。アルコールだ。塩を舐める、しょっぱい、焼酎を飲む。やはりアルコールだ。このままでは切りがない。少し腹も落ち着いたので、おれはお好み焼きを作り始めた……。

さて、人間、自分の体験を語るとき意識的、無意識的に「話を盛る」ことがある。おれとて例外ではない。じつは腹をふくらませるわけじゃなあないが、もう少しマシな肴はあった。お好み焼きに添える梅干しとチューブのわさびである。しかし、あえてそこで塩を選んだ。そこは盛っていない。人はどんなところで嘘をつくのか、一つの例である。用心されたい。