女は酒が嫌いではなかった。かといってとくに好きというわけではなかった。飲み会があれば普通に参加して乾杯のビールを一杯飲んだ。晩酌では週に何回かキリンの一番搾りの135ml缶(ある意味、贅沢だ)を一缶開けるくらいのものだった。
その女が急に焼酎のお湯割りに梅干しを入れて飲んだという。正確にいうと、あまりのにおいの強さと、アルコールの強さに飲めなかったという。
おれは驚いて、どうして急にそんな酒飲みの玄人みたいなことをしたのかときいてみた。答えは、「テレビでタモリがそうやって飲んでいるのを見て、どんなにおいしいものだろうかどうしても飲んでみたくなった」ということだった。
それで女は、ろくに飲んだこともない焼酎をひと瓶買い(甲類か乙類か知らないが)、分量もよくわからずにお湯で割って、梅干しを突っ込んだのだった。
おれは、「タモリすげえなあ」と思った。
おしまい。