ストライクウィッチーズ『エーゲ海の女神』を観る


 JRの山手駅から川崎駅までは約20分である。とうぜん行き帰りの運賃はかかる。しかし、せっかくならという気も働いて『エーゲ海の女神』を観に行くことにした。
 ……と、すばらしいストライクウィッチーズ狂いのおれにしては消極的である。テンション低めである。思うに、『サン・トロンの雷鳴』のときはすばらしいストライクウィッチーズに対してもっと飢えていた。今回は、『サン・トロン』の円盤からあまり時間が経っていないというところがある。
 などと言いたいところだが、のっぴきならない、ここには書く勇気がでないほどの理由により、金が無いのである。休日外に出るだけでいくらか使ってしまう、そのいくらかに躊躇するほど金が無いのである。すばらしいストライクウィッチーズについてですらそうなのである。それくらい金が無いのだけれども、「お、ここの劇場予約は楽天スーパーポイントが使えるじゃないの。ありがとう楽天カードマン」というあたりで鑑賞費用をまかない、寒空の下に出たのである。山手駅の改札を通る。VIEW Suicaに6千円の自動チャージが入る。日々のコンビニなどで使える金とはいえ「うお」と思う。
 行き先は『ストライクウィッチーズ』を観るためにいくどか訪れたTOHO CINEMAS川崎である。なぜ桜木町ではやってくれないのかと思う。とはいえ、川崎を飛び越えて東京でのみとなると、極度の出不精、ひきこもり傾向のあるおれは行くこと自体に躊躇するので、川崎はありがたいことである。ありがとう川崎。
 と、前置きが長くなったのはなぜか。とくに理由はない。いや、自分がどれだけの覚悟で三十分で千二百円の料金を支払うに至ったか。そして当然のことながらパンフレットを買ってしまったのか。それを書かずにはおられないのである。言うまでもないが、ここはレビューサイトではなく日記なのだから、正しい態度であるといえる。もし自分がのちにこの日を思い返したときに、この心情が抜けていては不十分なのだ。ついでに言えば、腹の調子がよくなかったので、家を出る前に赤玉はら薬を飲んだ。そんなことを書こうが自由なのである。
 その自由をさらに行使して、先に劇場(入りは5〜6割くらいだったろうか)での嫌なことをメモしておく。おっさんのおれから見てもおっさんっぽいおっさんが、軍事的ななにかについて何度か声を上げたのである。(ロンメルについて)「エルヴィンじゃなくてエルンストかよ〜!」とか、(次回予告について。「アルンヘムって空挺団出るのかよ〜!」とか、なにか口に出さずにはおられんという感じなのである。一人客だったのかどうかしらんが、ちょっと黙っててくれんか。たった三十分なんだ。そう思わずにはいられなかった。泣いたり笑ったりするのはいいが、そういうのは、なんというか、心の中か、部屋の中でやってくれという話である。おれだって内心「お、シュトルヒの短距離着陸!」とか思っていたのだから。
 いよいよ、感想を書こうと思う。とりあえず、今回のメンバーについてだ。というか、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユについてである。おれは「好きなウィッチは?」と問われれば、「マルセイユ」と答える。映画『撃墜王 アフリカの星』を観るくらいに好きなのである。501の中にはちょっと居ないような、孤高さ、高飛車さ、そのあたりがたまらんのである。見た目もすばらしくすばらしいので、思わず罵られたいなどと思うくらいだ。ええ、単なるマゾですとも。……まあ、501から一人なんて選べないので、なんていう理由もあるのだけれど(強いて言えば……お姉ちゃんか、エーリカか)。
 そのマルセイユがシャッキーニに加えて主要登場人物となる。すばらしい話なのである。なぜすばらしい劇場版にマルセイユがまったく出なかったのか、事情は知らぬが、ここで挽回してくれるのである。ありがたい話である。
 とはいえ、今回のマルセイユはアニメ登場回とは違った一面を見せてくれる。ロンメルノイマン大佐の前ではかしこまる。そして、相棒であるライーサに見せる表情もよい。これはもう、劇場で見てよかったと言わざるをえない。というか、『アフリカの星』のメーンテーマ「アフリカの星のボレロ」(iTunes Storeで買えますので)をバックにマルセイユが優雅に夕焼けの空を飛んでるだけでも満足した可能性は否めない。
 とはいえ、それで三十分は厳しいかもしれない(でも、そんなシーンは見てみたい。次のテレビ版に期待しよう)。というわけで、本作は地中海のwikipedia:デロス島ネウロイに抑えられ、これを奪還すべくシャーリーにルッキーニ、そしてトブルクからの二人のウィッチたちが呼ばれ……というわけである。どんなネウロイか、どのような戦いが繰り広げられたかなどは書かない。各自出撃して目指のこと。とはいえ、すばらしいストライクウィッチーズの世界で男(ロンメル)が活躍したのは初めてかもしれないので、そこは特筆しておくべきか。
 でもって、正直な、正直なところをいうと『サン・トロン』の方が面白かった。というか、あっちはお姉ちゃんのあれがあるので反則といえば反則なのである。もちろん、『エーゲ海』だってルッキーニのお母さんが出てきて、やけに(作画に)気合の入った料理をふるまったり、その家族愛(……って、勝手にルッキーニってきょうだいが沢山いる大家族のイメージだったけど、なんか勘違いかな。まあいいか)や、それを思い行動に出るシャーリーの懐深さとか見どころありますぜ、と。そしてまた、ラストや予告編を見て芳佳ちゃんの正妻について考えてみてもよいだろう。
 あー、しかしなんだろうな、きっとこれも円盤買っちゃうよな。絶対買っちゃう。買えるかどうかわかんないけど、買う方に動く。動いちゃう。3本目も観に行くだろう。さすがにイベントには行けないが、ああもう、嬉しくも困ってしまうものだ。OVAのCDも出る? ああまったく、どうしたものか。まるで小遣いの少ない中学生のようなレベルで、おっさん、まったくもって困ってしまう。自制心と自制心を振りきってこそ証されるものがあるのかもしれないという何かがある。おれは薄く浅く広くの人間なので(人を乗せた馬が走るなんとかいうスポーツだか博打だかには少し深く入りこんだことがあったかもしれないが)、こういう入れ込み方には免疫がない。それこそ、三十路を過ぎてからのことである。それゆえに危ない。その危なさをあぶり出すためにも、これは書いて整理しておかねばならぬことなのである。そしてこう文字にすることができているという時点で、さめている己がいることを自覚するのである。それは少し寂しいことでもある。

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