カーブにご用心!……『人生の特等席』を観る

人生の特等席 [Blu-ray]

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 今、クリント・イーストウッドだったら『アメリカン・スナイパー』だろ、というのはどうでもよろしい。おれは人間が球を放って、それを棒切れで打ったり走ったりするなんとかいう競技が好きなのだから、この映画も観なきゃなって思ってたんだ。それにクリント・イーストウッド作品だ。おれはクリント・イーストウッドの若いころの役者としての全盛期とかは正直知らんのだが、作る映画にハズレがないなあと思えてしかたない。楕円形のボールを投げたり、人と人がぶつかったりするなんとかいう競技のことはなんにも知らないけど、『インビクタス』だってわりと面白かったような気がするし。と、ここまで書いていうのはなんだけど、この映画は監督してなかった。ずっとクリント・イーストウッド作品の助監督とかやってた人が監督だ。でもまあ、クリント・イーストウッド作品ってことでいいんじゃないのって気もする。なにかこう、トラウマを持った男、家族との関係、あたり。
 でもまあ、野球映画である。優雅で感傷的なアメリカ野球? そう言えるかどうかわからない。データ全盛(そのデータというものの取り扱い方も日進月歩しているらしいが)の現代、自らの足と目と耳で選手を見極める老スカウト、弁護士の娘、肩を壊して引退した若い元速球投手……もうなんかそれだけでなんとかなりそうだし、なんとかなったなという感じ。
 原題は"Trouble with the Curve"。あいつはカーブにバットが泳ぐ。あるいは人生の曲がり角に困難がある。それとも、カーブで自動車事故を起こす。おそらくそのトリプル・ミーニング。これを『人生の特等席』とする。さてどうだ。うーん、原題を活かすのは難しいか。あるいは、野球映画を全面に出して「野球なんて興味ない」という客を逃すこともある、そんなところだろうか。
 それにしても、カーブに泳ぐあいつ。あいつの野球人生はどうなるのだろう。よくて3A止まりという感じがする。それでも、あっさり辞めて故郷に帰りにくいところもあるだろう。いったん、台湾か韓国あたりに行くかもしれない。そこでそこそこの長距離打者として成績を残して、日本に来る。ただ、年俸は二千万くらいで、出来高込みで五千万とかそのあたり。もっと打つ主砲がいて、そのバックアップくらい。でも、日本野球をなめちゃいけない。アメリカとはまた違った攻め方をしてくる。速球派もいないではないが、アメリカに比べたらほとんど軟投派みたいなものだろう。打率.233 7本 21打点くらいで一年でお帰りみたいなことになるかもしれない。やや悲観的だろうか。ひょっとしたら、アジアくんだりまで来て野球に打ち込むうちに、野球に対する姿勢が変わるかもしれない。そこに、現役時代首位打者を獲得したことのあるような技巧派の日本人コーチがついて、変化球対策を教えこまれて、持ち前のパワーと勝負強さと相まって二冠王、というルートもありえないわけじゃあない。よし、『人生の特等席2』はそれで行こう。え、2ないの? まあいいや、おしまい。