ダン・ファンテ『天使はポケットに何も持っていない』を読む

天使はポケットに何も持っていない (Modern&Classic)

天使はポケットに何も持っていない (Modern&Classic)

 ロッコに声をかけ、フリトスの袋を畳んで閉じる。手を叩き、名前を呼んだところ、おいぼれ犬が立ち上がり、片足を引きずりながら車に戻るまで一分もかかった。こいつを見ていると胸が痛む。

 アルコール依存症で深夜のポルノ映画館で男とファックした挙句にステーキナイフで腹を切ったりして精神病院に収容されるような男が飛行機の中で小粋に自慰などしつつ父の死に際に会いに行く話である。主人公の名前はブルーノ・ダンテ、父の名前はジョナサン・ダンテ。ジョナサン・ダンテは『風に訊け!』という小説を若いころに書いたが、やがてハリウッドの脚本書きになり、文学の道からは離れ売文による富を得るようになった男である。糖尿病で死にかけのジョナサン・ダンテは両足が切断されており、目も見えなくなっている。ブルーノは常にアルコールをガンガン入れつつ、父の愛犬ロッコと街をさまよう。
 著者のダン・ファンテは、ジョン・ファンテの息子である。『塵に訊け!』のジョン・ファンテの息子である。酒とドラッグに自殺未遂を繰り返した挙句に、50を過ぎてこの本を書いた男である。自伝のようななにかといっていいだろう。ろくでなしがついには書くに至ったのである。この本のおおよそはろくでもないアルコールにまみれたありがちな男の愚かしいことが書かれているが、父への思いについては特別なものがある。そして、全体を包むのはなぜか優しさである。この感じ……。
 は、もちろん訳者解説に指摘されるまでもなくチャールズ・ブコウスキーを思わせる。言うまでもなくブコウスキーは忘れられていたジョン・ファンテを世間に再発見させるきっかけを作った男である。

 カミングズの本を見つけたが、今読みたい気分ではなかった。ブコウスキーにも目を通してみた。なかなかだったが、買うまでには至らなかった。

 ダン・ファンテがブコウスキーをどう思っていたかは知らない。ただ、一箇所名前が出てくるくらいだ。とはいえ、ブコウスキー好きのおれとしては、やはりダメな人間を描くダメな人間の系図に記されていいんじゃないの、と思う。もしあんたがブコウスキー好きなら読んでみても損はしないような気がするぜ、と。
 で、このダン・ファンテ、今のところ邦訳されているのがこの一冊のようだ。この本の続きも二冊あって、「ブルーノ・ダンテ三部作」となっているらしいじゃないか。くそ、おれには英語の本を読むなんてことはできねえ。おれが酒と躁鬱病でどうにかなっちまう前にとっとと出しやがれ、ちくしょうめ。おしまい。
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塵に訊け!

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デイゴ・レッド

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