続き早く読ませろ『地上最後の刑事』、『カウントダウンシティ』

地上最後の刑事

地上最後の刑事

……「おれは、この時代向きの人間じゃないような気がする」
「そうかしら? この時代向きなのはあんただと思うけど」

 「地上最後の刑事?」と思っただけで、とりあえず手にとってみた。ミステリなのか、SFなのか。答えは……どっちも! というところか。舞台は小惑星が地球に激突することが確定した世界。人々は仕事を辞めて「やりたいことリスト」の消化に入ったり、宗教に走ったり、生き残りのために物資をかき集めてシェルターを作ったり……自殺したり、という、まさに末法の世。そこで一人の自殺者が出る。マクドナルドの便所で首を吊って死んでいた。自殺なんて当たり前の世界。が、主人公の新人刑事パレスは、他殺の疑いを抱いて捜査を始める……。
 なかなか面白い設定。こいつはいけるんじゃないか? そして、実のところ、本当に、わりとけっこういけてる作品だった。主人公の目に見える範囲で広がる末法の世。「なんでこんなときにそんなことにかかずらうのだ?」という周囲の目。それでも刑事というものにこだわりを持つ主人公。ハードな世界のハードボイルドだ。ワンダーランドがどこにもないハードボイルドだ。電脳も未来兵器も出てこない。むしろ地球の技術は悪化している。そのあたりもリアルといえるか。いずれにせよ、「世界が終ってしまう前の世界で」がよく描かれている。読んで損はない。

 その続編が『カウントダウンシティ』。

カウントダウン・シティ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

カウントダウン・シティ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

……文明というのは大量の約束で成りたっている、それだけのことだ。担保、結婚の誓い、法律を守るという約束、法律を執行するという誓約。いま、世界は崩壊しつつある。世界全体ががたがたになっている。そして破られたすべての約束は、崩れ落ちていく世界の板壁に投げつけられた小石なんだ。

 読んで損はない……『地上最後の刑事』の続きである。おれは「刑事というものにこだわりを持つ」などと書いてしまったが、本作ではすでに主人公は警察を辞めている。警察というものが捜査というものをパージし、単なる治安維持要員になってしまっている、というのもあるのだが。
 まあそんなわけで、のっぽの「元」刑事が、今度は人探しをする。旧友の旦那が姿を消したから探してほしいという相談を受ける。姿を消すなんていうのは日常茶飯事の末法の世である。自殺くらいよくある話である。「あ、そー」で終ってもいい。が、終わらせないのがこの主人公である。もう警察でもないのに、べつに特別な報酬があるわけでもないのに、人探しに奔走するのである。このあたり、主人公の行動原理が一番の謎やもしれぬといわれる前作、本作の肝である。こいつがなかなかわからなくておもしろい。なかなかわからないというか、わからんからおもしろい。そういうこともある。
 舞台も前作よりさらに悪化しつつある情況、アナーキストに占拠された大学、その他いろいろおもしろい。フィリップ・K・ディック賞のなんかを獲ったというが、それも頷ける雰囲気もある。これも前作を読んだなら必読である。
 と、このシリーズは三部作という。とっとと次の邦訳を出してくれ。いや、ください。お願いします、というところである。ミステリ+SF、なんてのはいろいろあろうが、なかなかいいところに球が来ている。見事に三球三振といかせてほしい。そう思う。