競馬ファン必見、韓国競馬映画『奇跡のジョッキー』


奇跡のジョッキー [DVD]

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スンホ(チャ・テヒョン)はかつて高い勝率を上げ将来を有望視されていたスター騎手だった。しかし、交通事故を起こし、妻を失い、自らの目も負傷し引退せざるおえなくなる。娘のイェスンと慎ましい暮らしをし、そして済州島の警察騎馬隊の牧場で下働きをするユンホ。騎馬隊の調教師ユン(ユ・オソン)もその時の事故で名馬であったヒョウに怪我を負わせてしまっていた。それ以来、ヒョウは心を閉ざしてしまい人を乗せられなかったが、スンホだけには心を許すのだった。ユンはじめ騎馬隊の仲間たちの協力もあり、スンホはヒョウと共に優勝を目指しレースに復帰するが…。

 競馬の映画というのがどのくらいあるのか知らないし、実のところそれほど積極的に観たいというわけでもない。小銭馬券買いとして20年近く過ごしてきた経験から、「そりゃあないんじゃあないの?」という突っ込みどころが出てきたりして、どうも集中できんのじゃないのか、という気になるからだ。
 が、これが韓国映画で韓国競馬となると話は別である。アメリカ競馬やヨーロッパの競馬についてほんのちょっとは知ってるような気はしているが、韓国競馬というとなかなかに未知の世界である。たとえばこんな話もある。

 そこで、今回は新たな試みにチャレンジした斎藤誠師に、意外と知られていない韓国競馬について聞いてみた。驚いたのは韓国独特のルールだ。日本ではスタート直後にポジション争いがあり、逃げ馬が外枠に入った場合は外から内へ斜めに走って位置を取りに行くが、韓国でこれをやると制裁の対象になる。スタートしてから約100メートルまでは真っすぐに走らなければならない。「イメージは陸上競技のセパレートコースですね。このやり方だと枠が重要になります」と師は説明する。

ルール独特?韓国競馬は内枠有利/競馬・レース/デイリースポーツ online

 エスメラルディーナで日本馬による韓国重賞を初制覇した斎藤誠師の話である。なるほど、そういうルールがあるのか。と、たしかにこの映画のレースシーンを注意深く見てみると、スタートしてからしばらくまっすぐ走っている。おれもこの記事を読んでいなければ、「撮影のための模擬レースだから先行争い無視してまっすぐ走らせてるな」とか思ったかもしれない。
 いやはや、日本の管理競馬に管理された競馬ファンからすると世界には世界がある。というわけで、この話なのだが、上の解説にあるように……ヒョウ? だれ? あ、ひょっとして「ウバギ」って馬名は韓国語で「豹」って意味? と思いきや、検索したら「雹」の方だった。まあいい。主人公はこのウバギとその仔馬を乗せた馬運車(というかトラック)を無理やり追い越そうとして事故るのである。で、その後、競走馬ウバギと復活を目指すのだが……。
 「競走馬として一度は走らせなければ」というのに、なぜ先に繁殖に上がっていたのだろうか。そしてまた、繁殖後に競走馬復帰というのはアリなんだろうか。ヒサトモだろうか。ただ、戦績がないというのだから、7歳で初出走ということになる。それが、トーナメント式のチャンピオンシップに挑むというのだが、韓国競馬はそんなトーナメントをやっているのだろうか。たぶん、やっていないだろう。まあ、そのあたりはファンタジーということでいいか。というか、キャニオンロマンもデビュー前に草競馬を走っていたとかいう話もあるくらいだし、世界は広い。調教師と騎手の復帰にしたって、テイクオーバーターゲットの調教師がタクシードライバー兼業だったり、世界は広い。
 が、目の悪い騎手というのはどうだろうか。これは危ない。最初おれは片目のみ悪いのかと思っていたのだが、両目の視力を失いつつあった。せめて片目なら……と思ったところ、高知競馬に隻眼の騎手がいることを知った。

 これは知らなかった。レース中の事故で片目を失明している。しかし現在1000勝以上しているのだからすごい。競走馬の隻眼といえばキョウエイレアルーベンスメモリーなどがいるが、こういう話もあるのか……。
 と、『奇跡のジョッキー』に話を戻すか。まあともかく、主人公のジョッキー(字幕でたまに「選手」となっているのが気になった。あと、レースのことを「試合」というのも不自然だ。韓国語ではレースを「試合」というのかもしらんが、翻訳者はそのあたり日本競馬用語に少し目を通すべきじゃなかろうか)はウバギとともにトーナメントを勝ち上がっていくのである。レースシーンはどうだろうか。わりといいというように感じた。なにせ、われわれはふだん競馬を等倍速で見ているのであって、なにもかもあっという間というのが正直なところである。少なくともおれはそうであって、どんなに時間をかけて予想したレースであろうと、どんなに好きな馬が走るレースであろうと、どんなに対決が楽しみであったレースであろうと、ゲートが開いてゴールを駆け抜けるまで長くて3分ちょいの世界である。それを引き伸ばして見せてくれるのだから、悪くないのである(漫画『みどりのマキバオー』が名作なのも、引き伸ばしにあるだろう。まあスポーツ漫画全般がそうなのだろうが)。とはいえ、主人公の馬がごぼう抜き、というシーンであからさまに他の馬の騎手が手綱をひいて抑えているのが見え見えとか、粗もたくさんあるんだけれども。
 というか、粗の極みは最後のレースであって、「えー!」という感じはある。最初の方のエイシンヒカリばりの大斜行を通りすぎた逆走とかもすごかったが、この(ネタバレ)はどうなのよ。よけい危ないんじゃ。とか思ったり。あと、(ネタバレ)があまりにも粗雑なワイヤーアクション風でどうなのよ、とか。まあしかし(ネタバレ)は日本の地方競馬でも行われているなんていう話というか映像も出まわったりしているし、それ自体はなんだけれども、まあ、はっきり言ってしまえばカラ馬にするより騎手の手で止めろよ、と。
 それでも、一応感動のラストがあって、良かったな、と思ったあとに(おそらく)KRAがねじ込んできた映像があって、それには萎えた。どうも脚に爆弾があったが大活躍した馬がいたらしく、本作の冒頭でもその「ルナ」という馬をモデルに……とかあったんだけれども、その馬の実際のレースが流れるのである。たぶん大きなレースで、最後方からブロードアピール根岸ステークスばりの大外一気で差し切る、おそらくは韓国競馬史上屈指の語り草になるレースだったんだろう。そいつをKRAが競馬を知らないファンへのアピールにしたかったのかもしれんが、なんか今まで観てきた映画はなんだったの? という気にはなってしまった。せめて、エンドロールの途中とか、最後とか、ねえ。まあいいや。
 まあなんだ、たぶん競馬ファンは観ていて飽きないんじゃあないかとは思う。もちろん、突っ込みどころ含めてというか、突っ込みどころや疑問点だらけなんだけれど。たとえば、主人公と娘が実況ごっこをしていて「アメリカの馬を抜いて、中国の馬を抜いて、日本の馬を抜いて……」とか言ってて、それはアメリカ馬のことなのか? 日本産馬のことなのか? というか、中国の馬は香港なのか? とか、まあ挙げればキリはないんだけれども。つーわけで、まあなかなか韓国競馬映画というのはレアなような気もするし、けっこう楽しめました。おしまい。

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シービスケット』でも「他馬が手綱を抑えているように見えた、なんてのは些細なこと」とか書いてるな、おれ。まあ、かように生き物である馬の制御は難しい。だからして、競馬の八百長があるとしても、僅差の2着だの3着だのは難しいんじゃないかとは思う。故意落馬や大敗なんかはできると思うが……。