ある人はわれわれの宇宙の他に逆回転する双子宇宙があるという。
ある人はわれわれと同じ元素でできた宇宙が無限に存在するという。
だが、おれは別の宇宙のおれと会って話すこともできない。
だからおれはこの宇宙のおれに話しかける。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃなさそうだ」
人が死ぬときに、死ぬべき格好をしていないのは不幸なことだと思う。
人は死ぬときに、死ぬべき格好をしていればいいのにと思う。
たとえばどんな格好をしていれば死にふさわしいのだろう。
たとえば喪服なんてぴったりじゃないか。
だれかが死んで生き残っただれかが着る喪服。
死んだだれかが先に着ているというのは一つのユーモアだ。
喪服で死んでいるというのは礼儀正しく、滑稽で、存外悪くない。
「悪くないのかい?」
「悪くないだろう」
おれは元日の公園を走った。
いつまで走っても上がりそうのない凧を引きずる子供も走った。
男も走った女も走った犬も走った。
引き返すことのできない道を、ただひとつのゴールだけを目指して。