的場の乗り方

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赤見 いや、今でもカッコイイですし、的場騎手が追い込んでくると場内が沸きます。

的場 いやいやいや。まあ、今の自分にやれるだけのことは、やってるつもりですけどね。ルーキーというか、一番いい頃は半端じゃなかった。馬に負担をかけないで乗れてましたよ。前重心で引っ張りもせず、馬の口角に一番気持ちいい感じでハミをあてて。赤見さんは何年競馬に乗られました?

赤見 7年です。

的場  あぁ、それならわかるでしょう。馬の口へのあたり、あれって難しいですよね? ただあてるだけだと、馬がファーっとなってしまう。あの頃はそういうのが全 くなくて、「この馬、俺が乗ってると楽だろうな」って、そんな乗り方が出来てました。“ふわ~”っと、雲みたいに乗ってましたもんね。

赤見 雲みたいに乗ってるって、いい表現ですね。それこそ人馬一体というか。

的場 うん、人馬一体というやつかな。スーッと乗って、前の馬との間隔もすごくよかったしね。馬も道中楽に走れるから、直線でビューっと伸びる。そりゃあバンバン勝つわけだよ! 雲みたいに乗れちゃうんだもん。

赤見 今でも的場騎手が乗ると、馬がよく動くと思います。

的場  いや、あまり気持ちよく走らせてないよなという感じはしてますね。一番いい頃は、レールの上をピューッと走るような、そんな乗り方が出来てましたもん。自 分でも「何でこんな乗り方が出来るのかな」って。自分の思う通りに馬が動いたし、自分にしか出来ないという自負もあった。騎手として一番いい時代だったん でしょうね。あの頃はすごかった!

 

おれは的場文男の乗り方が好きである。馬0、人10くらいの迫力で追い込んでくるさまは、実に力強く、実に地方競馬的である。的場だからもたせた、的場だから差しきれた、そんな気持ちにもさせてくれる。おれがニートの時分、ほかのギャンブルではなく南関競馬に惹きつけられたのには、いくらか的場文男のせいでもある。そしてあの頃の的場といったら、ゴールドヘッドとかに乗ってた。いまは的場直之も的場均も調教師になってしまった。ただ、的場文男はいまだ馬上にあって、東京ダービーを狙っている。

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(ボンちゃんにも乗ってたぜ)

さて、おれがたいへん魅力的に感じる的場の乗り方について、インタビューがあった。上に引用した部分だ。おれが見始めたころには、もう的場は本人にとって「一番いい頃」ではなかった、ということだ。おそらくは、「一番いい頃」の「俺が乗っていると楽だろうな」というフォームは、たとえば藤田伸二が理想としたようなフォームだったのだろうと思う。藤田は騎手が馬上で「ダンス」するのを理不尽に考えているようだった。

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とはいえ、そのダンスをする騎手に(いつの間にか)なっていた蛯名正義が先日の皐月賞を勝った。岩田康誠とていま好調ではないが全国リーディングベストテンにはいるし、同じく地方の乗り方をする川田将雅はもっと上にいる。

おれは騎手の乗り方の良し悪しを論じられるだけのなにかはない。ただ、的場文男にせよ、蛯名正義にせよ、歳をとってそういうフォームになっていったというのが少し興味深いということだ。それだけ流麗なフォーム、たとえば武豊の乗り方が逆に身体にとって負担がある、ということかもしれない。いずれにせよ推測にすぎないが。

ただ、一つ言いたいのは、いろんな乗り方をするジョッキーがいたほうが面白い、ということだ。頻繁に落馬を引き起こすような乱暴な騎乗というのは論外だが、馬上フォームはいろいろでいい。藤田菜七子騎手が根本譲りのヨーロピアン・スタイルをするようになったっていい。地方競馬から引っ張りだこで、地方巡りをしているうちに的場みたいな追い方ができるようなっても面白い。

まあ、馬上で命を賭ける騎手に対してはすべて敬意を抱きたい。ちんけに小銭を賭ける(有馬記念以来の馬券=皐月賞ロードクエスト流し)おれに言えることはあまりない。