自転車読書マン

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今朝、おれは信号待ちで歩道の角にいた。目の前の車道にママチャリ一台、やはり信号待ちしている。その信号待ちしているママチャリのおっさん、文庫本を読んでいて、おれはおどろいた。寸暇を惜しまずという言葉はあるが、たかが交差点の赤信号、寸暇どころじゃあないだろう。そんな間隙をぬってまで読書するか? いや、道交法的にどうよ? とか以前に、そんなことするやつがいるとは意外だった。歩きながらスマホ、というのは今時だが、歩きながら本や漫画を読んでいるやつもたまにはいる。しかし、自転車で赤信号の隙に本を読むやつがいるか。

と、世界というのはおれの理解をさらに超えたものだった。……そう書いてしまえば、もうおわかりだろう、そのおっさん、信号が青になっても本を片手に、本に目を落としつつ自転車を漕ぎ始めたのだ。ものすごいスローで。歩いてる人より遅いくらいに、ちょっとふらつきながら、車道を。

おれはもう驚嘆するほかなく、あるいはそこまでおっさんを惹きつける本のタイトルを知りたいくらいになった。一体何なんだろう。長い間電車通勤で本を読む習慣がついていたが、なんらかの理由で自転車通勤になって、それでも本を読む習慣が抜けない? それとも、朝一の会議で必要な資料なのにまだ読み終えていない? いろいろ考えたところで、おっさんはのろのろと自転車を漕いでどこかに行ってしまった。おまわりさんに見つかったら、「警察のホームページには読書しながら乗るなとは書いてなかったぞ!」とかキレたりするんだろうか。よくわからない。

おれはそれなりに自転車に乗る人間(自転車に乗るために自転車に乗ることがある人間)に区分されるだろうが、人生で自転車実用期間というのは短い。小さな頃は坂の多い鎌倉で、自転車を買い与えられ、乗れはしたが、日常の足にはならなかった。乗るようになったのは……たぶんネットに日記を書き始めたあとからだろう。

自転車に乗って - 関内関外日記

そうだった。

そんなおれにとって、イヤホンをしながらというのはできないこともなさそうだが(やらないけど)、スマホいじりながらとか、傘をさしながらというのは「技術的に無理」というところがある。悪い意味でだが、自転車と一体化できていないというわけだ。そういう点でルール違反の自転車乗りについて、嫌悪感と同時に変な意味で感心する部分がないわけじゃあないのだが、しかし、読書はなあ。現実だけど想像の埒外だ。そしておっさん、その本が面白いという理由だったら、読み終えたらおれに貸しておくれよ。そのときにあんたが生きていたらだけれどな。