競馬予想家、評論家として第一線で活躍していた清水成駿(しみず・せいしゅん)さんが4日午後3時17分、東京都内の病院で死去した。68歳だった。葬儀・告別式の日取りは未定。
清水成駿が死んだ。
なんとなくその予兆はあった。驚き半分、いよいよ来てしまったかという気持ち半分。そんな心持ちである。
おれの青春には競馬があって、競馬には清水成駿がいた。おれが生まれて初めて買った競馬の本は清水成駿の本だった。たまたまだった。初心者が入門用に読むのだから、書店の本棚にある中から適当に選んだ。だが、そこで展開されていた清水成駿の競馬観、語り口、おれはすっかり虜になってしまった。おれが生まれて初めて買った競馬専門紙は1馬。当たり前のことである。
俺は長年1馬を愛読してきて、それは清水成駿がいたからに他ならないのだけれど、成駿のいない1馬も競馬もつまらなくなってしまって、それ以来1馬は買わなくなってしまった。いなくなった直後は何度か買ったけど、なにか寂しいものがあって、避けるようになったのだ。
そして、1馬も買わなくなってしばらく経って買うようになったのが、東スポだった……というと話は早いが、なぜか内外タイムス(現在廃刊)を買うようになった。
ほぼ毎週末買っている内外タイムス。その予想欄の一番バッターがいきなり交代したから驚いた。それまでは鈴木和幸で、おそらく俺がこの新聞を買い始めた一年くらい前に登場したような気がする。最初はメーンだけだったが、すぐに一番バッターと相成った。が、それが予告もなくいなくなり、古谷剛彦という人がバーンと出てきたのだ。
予想家の打順交代と言えば、清水成駿が1馬の一番を降格し、競友の渡辺に譲ったことがあったが、あのときは登場当週の金杯で人気薄のヒカリサーメットに◎を打ってえらく驚いたっけ。というわけで、乗り代わり当週の予想家には乗りか?
それでも清水の思い出話を書いたりしている。
その後、東スポで清水がG1の予想をしていることを知り、東スポに乗り換えた。あるいは内外タイムスの廃刊が先だったか。ともかく、芥川賞か直木賞を獲る、というたいへん曖昧な目標を残して1馬を去った清水成駿は、知らないあいだに東スポにいたのだった。
2009スプリンターズステークス&ソラメンテウナベス - 関内関外日記(跡地)
金曜日の段階ではシーニックブラストがおもしろそうだと思っていた。が、今週から東スポに復帰する清水成駿が本命にしていたらやめようと思った。事実、そのとおりだったのでやめた。言っておくが、俺が一番好きな予想家は清水成駿であって、清水成駿なくして競馬の道に迷い込んだかどうかもわからない。ただ、予想というのはドライなものなのだ。
ドライとはいえ、おれは清水のファンだった、信者だった。社台一極集中に斬り込み、今どきの調教師の有り様を批判し……晩年、予想はそんなに当たらなかったかもしれないが……。
俺が尊敬する人は、清水成駿である。清水成駿は、ジャパンカップを得意としていた。それは、ジャパンカップが清水の競馬予想の思想にもっとも適合するレースだからだ。その思想とは「使う人間の意図を見抜け」というものだ。その馬は本当にそのレースに勝ちに来ているのか、どういう意図があってそのレースを選んだのか。その狙いを確かにしてから、はじめて馬の力比べをする、そういう考え方である。
ジャパンカップ、清水、といえばドイツのランドである。おれは何ヶ月も前からランドを狙っていて、清水の本命もランドで、ランドはジャパンカップを勝った。清水といえばダービーのボールドエンペラーだろうという人もいるだろうが、おれにとっては好きなレースで予想が一致し、けっこうな儲けが出たランドが忘れられない。
清水成駿の「馬は何でも知っている」―“馬連”時代を勝ち抜くリストラ馬券学
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これがおれの競馬始まりの本だったか。帯に伊集院静が「成駿の本命」という言葉が「青春の本命」に聴こえたことがある、みたいなことが書いてあったような気がする。
おれにとっての青春の本命は、1馬の最上段、孤高のポツン◎。その清水が死んだ競馬の世界。おれは、それでもズルズルと週末に東スポを買い続けるだろうし、男の一本勝負なんてものとは無縁に、ズルズルと馬券に負けていくのだろう。
そんなおれは、生で清水成駿を見たことがある。わざわざ、馬の走っていない競馬場で行われた予想イベントに行ったのだ。おれの一生の思い出のひとつといっていい。
ついで、仰々しい音楽に乗って清水成駿。生まれてはじめて生で見る清水成駿。高そうな黒いスーツ、少し猫背。病気がちのようだが、顔の印象などは写真で見る通り。寒い中のこともあってはじめ咳き込む。
「前に外したら坊主になるって書いてたけど、坊主になってねえじゃねえか」という内容。今回の外れについてもディスる。これがしつこい。清水、ついにキレ気味に「もう川崎には来ません!」。アナ、「そんなことないですよね。また来てほしいという人、拍手お願いします」とフォロー。わきあがった拍手、「また、来ます」と清水。拍手が起こらなかったらどうなったんだと俺、丸めた新聞紙を叩きながら思う。立ち去る清水成駿、タバコの煙、後ろ姿、男の哀愁だぜ。
……というわけで、嘘みたいに連続的中。俺最高。この日の川崎は最高だった。なにもかもよかった。今後は馬の走らない川崎、大井の大レースは川崎で馬券を買う。俺が死んだら、魂はこの日の川崎競馬場に飛んでくる。長くなったのでいいかげんに切り上げる。
さらば、青春の本命!