わいせつフェルミ推定の街

「……以上が、わたくしが御社のはんぺん販売事業にコミットしたいと考える理由です」

正面に年かさの面接官、向って左手に大柄な体育会系の男、右手に小柄な眼鏡の男。三者が目配せした。おれの転職面接はこれで終わりだろうか。

と、思った瞬間を狙ったかのように、面接官が口を開いた。

「ところで、この街、K県Y市のわいせつ石膏職人の数は何人いるかわかりますか?」

最後の難関が待っていた。

「そうですね、学生時分、だいたいわいせつ石膏を自慢するのは30人の学級の中で1人いたかいないかです。おそらく引っ込み思案の女子の中にも、おまんの子が1人くらいいたかもしれないから、30人に2人くらいはわいせつ石膏が家にあったと考えられますね……。けれど、私には正確な答えがあります。それは、この街のわいせつ石膏職人の数は、きっかり100人だ、ということです。ご存知かどうかわかりませんが、都市に進出したわいせつ石膏職人はギルドを作ります。そして、その人数が増えも減りもしないように、厳密に管理するのです。Y市の規模であれば100人。たとえわいせつ石膏を作ることができなくなった年齢になっても、終身その資格は維持される。だから、それ以上でもそれ以下でもありません。ここまできたらお話する以外ありませんが、わたしはわいせつ石膏の村から出てきた、もぐりのわいせつ石膏職人でした。当然、この街に流れてきてもギルドには入ることができなかった。とはいえ、愛する女性ができ、家庭を築くことになったのです。ギルドの掟を破って、闇の稼業として職人を続けるのには限界がきていた。そこで、はんぺんの販売人になろうと、御社に就職したいと考えた次第なのです」

おれは正直にそう答えた。それ以外に道はないと思った。

「そうですか、やはりそうですか」と面接官の男。

「なんとなく、気配でわかるものなのですよ、わいせつ石膏に関わる人間というものは。そして、わいせつ石膏職人は、足抜けしようとしても、やはり白い呪縛からは逃れられない。だから、はんぺん販売人なんぞになろうとする。今まで何人もいたのです。そして、残念ながら今日はあなたが引っかかってしまった。まことに残念な話です。わたしたちはあなたを処分しなくてはならない。それがわれわれのオルメタというものなのです。誠に残念だ」

向って左手にいた大柄な男が視界から姿を消していた。カチャ、とドアのロックを閉める音がした。背後に気配を感じる。

「誠に、残念だ」と面接官の男が再び言う。

その刹那、おれはスーツに隠したホルスターからシグ・ザウエルP226を抜き、真上に向って引き金を引く。9mmパラベラム弾が大柄の男の顎に穴を開け、脳天から花火を撒き散らす。

「これで欠員が出た。99人だ。わたくしが100人目ということでよろしいか?」

大柄の男がかかげて、おれの脳天に振り下ろそうとしたわいせつ石膏は真っ二つに割れていた。赤い染みがそれを彩っていた。面接官の男は顎に手を当てて、小声で「フムン」と言った。

この街には、100人のわいせつ石膏職人がいる。推定するまでもない話だ。

 

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