まちかど事件簿・その2 また自販機に小銭を吸われるおれ

夕方、そんなに眠いわけじゃないが、なにか疲れている。とはいえ、モンスターエナジーを飲むほどじゃない。コーヒーは飲み飽きた。なにか甘いものが飲みたい。職場の冷蔵庫には水と麦茶。午後の紅茶のレモン。いまおれが求めているのはそれだ。

おれはずったらずったら道を渡り、自販機に辿り着く。100円玉入れる、10円玉2枚入れる。ボタンを押す。反応がない。「あれ?」。金が足りてないわけじゃない。そういう価格設定。べつの商品のボタンを押す。無反応。返却レバーを下ろす。無反応。あ、これは……。

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「故障ですか?」と聞くと、「いたずらです」と、ちらりと折りたたまれた広告紙かなにかのようなものを見せてくれた。コインの薄さにした紙を硬貨投入口に突っ込む。これだけの話である。これで自販機の喉はつっかえる。投入口から吐き出す機能もない。中で紙にひっかかったから、金を入れてもうんともすんともいわなかったのだ。おまけに、外から見た分にはまったく普通に稼働中の自販機にしか見えない。悪質だ。

この反応のなさは、これじゃないか。またか。しかし寒い。連絡も面倒だ。金はもういい、帰る! と、おれは明治の成金のような心持ちで(どこがだ?)職場に戻った。職場に戻って別の記憶も戻った。

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赤いジャージ着たおっさんが自販機の釣り銭と自販機の下に手ェ突っ込んで小銭集めしてたら、道のあっちがわからグレーのジャンパー着たじいさんがやってきて、大声で「それは俺んだ、馬鹿野郎!」と大声で怒鳴ったものだから、関係ないおれまでびびった。赤いジャージのおっさんはどっか行った。

あのじいさん。

結果として、折りたたまれた紙片がコイン投入口の奥につっこまれているというイタズラだった。……イタズラ? これがイタズラじゃなくて「俺んだ」の正体だったらどうだろう。500円玉とか吸い取られても、面倒だから諦めるやつとかいるだろう。そして、あのじいさんが吸い込まれた500円玉を吸い出す技術を有していたら? そういう意味での、もっと厳格なシノギのシマかもしれない。フサイン=マクマホン協定みたいなもので、そう決まっているのかもしれない。

 シマ、シノギ。おなじ自販機。おれが午後の紅茶を買いそこねるのをどっかで見張っていたかもしれない。こんどは、小銭をしっかり回収したのかもしれない。くそったれ、やられた、しかし、どうやって小銭を回収するんだ? 見張るのはおれの番だ。24時間監視してやる。……ような暇も気力もねえよ。なにせ、外はまだ寒い。そして、白昼夢を見ているかもしれないおれが、小銭じゃなくてドングリを投入口にねじ込んでいた可能性だってあるんだぜ。入らねえか、ドングリ。