さて、帰るか

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「今日はキャベツを買うのだ」と思いを込めてスーパーに行けば、一玉480円のキャベツだって買えるのだ。思いが大切なんだ。みんなそれを忘れちまって、この世は怠惰が支配し、少数の強者ばかりが我が物顔の地獄になっちまったんだ。それでこないだ、テレビを見ていたら、「高い白菜を少量でたくさん食べた気になれるレシピ」を紹介するってんで、ちょっと見てみようと思ったら、まず材料に「カニ肉」とか言いやがんの。料理研究家が。具体的に言えば栗原はるみが。「カニかまぼこ」じゃないよ、純正のカニだよ、どうだい、いい色とイボイボだろ奥さん……。おれは頭にきてチャンネルを変えちまった。カニ肉を買える人間はどんなに高い白菜だって買うだろう。風呂で白菜を茹でて、その中に入って大吟醸をあおる。白菜が高くて困るなぁって思ってるのは、白菜風呂に入れないから困ってるんだ。テレビの向こう側の人間はだれもそれをわかっちゃいない。昨日も今日も白菜風呂につかって、世の中に昆布だしくささを撒き散らかしてるんだ。撒き散らかして気づかない。しかも、そのにおいを電波に乗せておれにまで届けるんだから、生きているのも嫌になるってもんだよ。昆布くせえんだよって、だれか言うべきなんだ。いや、おれが言うべきなんだ。だから、こうやって言ってるんだ。白菜は風呂に入れるな、鍋に入れろ、と。だいたい、だれが白菜を風呂に入れるだの入れないだの言い出したんだ。おれにはさっぱりわからない。けどな、騙されちゃいけないぜ奥さん、おれみたいなやつが何かの間違いでテレビに出られる料理研究家になったりしたら、「少ない白菜をたくさん食べた気になれるレシピ」とかで、用意するもの……風呂(ユニットバス可)とか言い出すんだぜ。立場は人を変えちまう。悲しい話じゃないか。昨日までメキシコ産のアスパラガスばかり食ってたやつが、今日からは白菜風呂でモエ・エ・シャンドンだ。ちょっとぬるいのもご愛嬌とかいって、カーステで鳴らすクソ渋いベース。出汁をとるときはな、沸騰させちゃいけないんだ。素材との対話だ。その対話ができたなら、おまえは白菜風呂に入る資格があるといえるだろうな。もしそうでなければ、顔を洗って出直してこい。しかし、おれはもうそこにはいない。おれを追いかけるなら北に行くべきだ。間違ってもアフリカに行ってはいけない。人間はときにはナイアガラにもなる。密猟者がライオンに喰われることもある。たまにはそういうことがあったっていいじゃねえか。今日もこの街には豚どもが脂汗流しながらうようよしてるぜ。寒いから脂肪も固くなっちまってる。包丁を湯で洗う。冷水より温水の方が手が荒れるって知ってたか? おれはゴム手袋をして洗い物をするから関係ないけどな。肌のケアを大切にすること。歯ブラシは早めに交換すること。もしも庭があるならユスラウメを植えること。この三つを守れるなら、おまえは立派な人間だ。じゃあ、乾杯しようじゃないか。だれかぬるくなったモエを持ってきてくれないか?

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