深町秋生『地獄の犬たち』を読む

 

地獄の犬たち

地獄の犬たち

 

兼高はひっそりと息を吐いた。刑事になりたかった。罪を犯しながらも、シャバでのうのうと生きている犯罪者が許せなかった。実家近くの小さなスーパーで発生した強盗殺人事件。あの犯人のような連中が。なんの罪もなかった比呂美やアルバイト店員らを、無慈悲に射殺するような外道たちに手錠をかけるのが夢だった。

潜入捜査ものである。警察官がヤクザの組織にヤクザとして潜り込む話である。なんというか、その設定だけで一翻ついたようなものである。そのぶん、ハードルは一段高くなるといってもいい。はたして、この『地獄の犬たち』はハードルを乗り越えたのか?

乗り越えた。おれはそう思う。二翻くらいついて返ってきた。さすがの深町秋生といっていい。おれはそう思った。

主人公は関東の大組織に潜り込んだ警察官。整形をし、背中には刺青も入れている。そして、キラーである。サイコパスのような弟分とともに、キラーとして頭角を現していく。正義感に溢れ、犯罪を憎み、その道中で潜入を命じられ、受け入れ、キラーとなった。その葛藤、潜入捜査もの、である。

そして、いつしかヤクザの側の親兄弟分に思い入れを抱くようにもなっていく。潜入捜査ものである。だが、その描写がエグい。キツい。ノワールだ。すばらしい。

すばらしいのは、「地獄の犬たち」の描かれ方だ。極道それぞれに濃厚なキャラ付けがあり、それぞれに生きに生き、死に死に死んでいく。この個性付けが深町秋生ならではのように思う。元力士、元ボクサー、元警官、とんでもない警官……。そこに作者から登場人物たちへの愛がある。活躍させてやろう、いい死に方をさせてやろう、そういう思いだ。おれは勝手にそう思っている。地獄の犬たちは躍動している。

して、果たして、潜入警察官はどういう道を選ぶのか。なにが正義か。そのあたりは本書を読めばいい。おれはたいそう面白かった。それだけのことだ。

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