シオラン『深淵の鍵』をざっと読む

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E.M.シオラン選集〈5〉深淵の鍵 (1977年)

E.M.シオラン選集〈5〉深淵の鍵 (1977年)

 

国文社のシオラン選集の最終巻である。このシリーズが出た時点でのシオランネタも尽きた、という感じの一冊である。「ジョゼフ・ド・メーストル論」も、メーストルよく知らんし(いまWikipediaで読んでみたらちょっとおもしろそうな人だったが)、「ヴァレリーとその偶像たち」も、ヴァレリーよう知らんし、というところ。

そして、巻末はわりとながい出口裕弘の『E・M・シオラン論』だし、そのなかの幾分かは『苦渋の三段論法』のアフォリズムの引用である。むろん、この『論』は発表当時にシオランを日本に紹介するという貴重な役割を果たしたものだ。

とはいえ、ここに引用されているアフォリズム、おれが『苦渋の三段論法』で見落としていたか、おもしろいのがあったので引用の引用をする。

「男と女にはふたつの道が開かれている。すなわち残忍さと無関心だ。一切の事情から見て、男女はこの第二の道を採るように思われる。彼らの間には理解も決裂もなくなるかわりに、たがいに離れあって、男色とオナニズム――学校と寺院がきそって推奨する男色とオナニズムが、いずれ大衆を獲得する時が来るだろう。廃棄された山のような悪習が力を取りもどし、科学的方法が、痙攣の能率を倍加させ、カップルの呪いを完成してくれるであろう」

このあたり、どうだろうか。もとよりシオランは半出生主義者であって、男女の愛だの恋だのは相手にしていないところがある。それを極端に書くと、こういうことになる。なにか男女の話、フェミニズムの話などこわごわ覗き見ると、互いに残忍な言葉を投げつけあってるのを目にすることもあるが、無関心の方がましではあろう。そして、互いに同性愛とオナニズムに引きこもるほうが平和である。そのための、一層の「科学的方法」……バーチャル・リアリズムなり、ロボットなり、薬物なりの方法が深化していくことを願うべきに違いない。

話を『深淵の鍵』に戻そう。この表題作は、こういう経緯で書かれたものらしい。訳者付記から。

 訳出したE・M・シオランの「深淵の鍵」は、もともと美術関係の豪華本の出版で名のあるジョゼフ・フォレが、1961年に制作した『アポカリプス』と題する大作に収録されたものである。羊皮紙を用いた一冊かぎりの本で、表紙はブロンズ、そこに宝石がちりばめてあろうという凝りようであった。数年前、日本でもこの本の全容が展示されたことがあるから、実物を見た人もいるに違いない。シオランは、この一冊しか存在しない本のために、ここに訳出した文章をつづり、肉筆で羊皮紙に刻んだのである。

「ジョゼフ・フォレ」で検索してくると、次のページが一番上に出てきた。

APOCALYPSE

……この本、だよな。あ、「画家7名と文学者7名の肖像」の画像クリックすると、シオランの写真と名前があるやん。いやはや。しかし、出口さんは自分で刻んだように書いているが、どうもそうではないようだ。あと、関係ないけど澁澤龍彦が好みそう、あるいは逆に「ぞっとしない」とか言って触れそうな本だよな。

しかしまあ、こんな本を作ろうというのもすごいし、そこんところで誰に書かせるか、でシオランが選ばれるという。なんという趣味の極みがあるものだろう。現代でこれを作ろうとしたら、どんな文学者が選ばれることだろうか、あまり想像はつかない(おれが知らないだけだろうけれども)。

力を得るにつれ、人間はいっそう傷つきやすくなるものだ。人間がおそらくもっとも深く怖れているのは、創造が完全に扼殺され、人間が勝利の祝典を張るその瞬間なのだ。人間はおそらくこの宿命の大祭典、この戦勝の祝宴のあとまでは生き残れないのである。あらゆる野心、あらゆる夢を実現する寸前に、人間は消滅するだろうというのが、一番ありそうな図柄である。人間はすでに充分に強大であり、なぜこれ以上強大になりたいと渇望するのか、知れたものではない。これほど飽くことを知らぬ貪欲さの裏には、救いようのない悲惨があるのだろう。本質にまで根ざした頽廃が隠されているのだろう。植物も動物も、彼ら自身のうちに救いの徴を持っているが、人間のほうは滅びの徴を持っているとしか言いようがない。このことは、私たち各人それぞれに真であり、また、不治のものの閃光に目がくらみ、地に打ち倒された人間という種の全体についても真である。

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