少しくたびれた靴は履き心地がいい。
もこもこに服を着込んで僕はドアを開ける。
清冽な空気が身体に染み渡って、吐く息は白い。
僕はただ、光の射すところに向かって歩みだす。
さようなら、住みなれた部屋。
さようなら、住みなれた街。
そんなに大きくない荷物を背負う。
ときどきかえりみることもある。
歩みは遅くても、ただまっすぐに進む。
さようなら、住みなれた国。
さようなら、住みなれたことば。
僕はただ、光のある方へ向かって歩みだす。
吐く息は白く、吸う息は冷たい。
新しい場所へ、新しい居場所へ。
こんにちは、見知らぬ人。
こんにちは、見知らぬ街。
どんなところにも太陽の光は届く。
どんなところにも陰がある。
さようなら、寒い部屋。
さようなら、寒い街。
こんな言葉が世界に届かないとしても。
いま、一羽の小鳥が死んだとしても。
僕は、歩くのをやめない。
そんな決意を、した。