おれは登録と同時にもらえる500円のために、スマートフォンに決済用アプリをインストールした。おまえは500円ほしいか？ ほしくないのか？ おれは500円がほしい。だからそうした。そうして、5000円分チャージした。だれかの思う壺だ。この世は強欲の壺でできている。とはいえ、間近のコンビニで使えなければ無視しただろうが。
ペイペイ！
一度、決済しようとしたら二度も通信エラーが起きた。おれはすぐに「じゃあ、Suicaで」といって、逆のポケットから財布を取り出して決済した。Suicaの方が楽だ。手袋をしていても、ポケットから財布を取り出して端末に触れるだけでいい。財布から取り出さにゃならんクレジットカードよりも、操作の必要なバーコード決済より楽だ。そんなのわかってる。
一足跳び、できなかったのかな、と思う。店側の導入費用や運用費用のことは置いておいて、バーコード決済、QRコード決済、ようするに、もはや何種類あるのかわからない「なんとかペイ」を跳び越せなかったのか、ということだ。中国では主流だの、それは言いすぎだの、そのあたりはわからない。個人間で決済できるという利点なんていう話もあるだろう。
それでも、だ。それでも優秀なSuica（おれが使っているから挙げているだけで、FeliCaといったほうが正確なのかもしれない）があって、「なんとかペイ」はちょっと寄り道しているか、一歩後退しているようにも思えるのだ。そっちに行くくらいなら、一歩先に行ってみせてほしかった。具体的に言えば、指紋で決済ができるとか、虹彩をスキャンするとか、ちょっとしたチップを手首に埋め込むとか、そんなんだ。
……SFじみた妄想？ それはそうだろう。でも、一歩先を行ったら、まただれかが一歩先を行って、今度はそれを追い越して、というほうが楽しいだろう。
そういう妄想でいうと、F-35の導入、あるいは未知のF-2の後継機、これである。一歩先んじて、一足跳びに今までにない無人機の導入などできないのか。要するに、日の丸つけたアーセナルバードを飛ばせと言っているのである。本体も無人でいい。中学生かよ。笑えよ。
話は急激に変わるが、おれは反「出生」主義者であって、反「生」主義者ではない。
私の秘密？ 生への病的愛だ。
シオラン『カイエ』
前に書いた。
もう、生まれてしまったものは仕方ない。この地獄の同胞として迎えるよりほかないし、できるだけ苦しみと不幸のない人生を送ればいい。そのように思う。
だから、死についてもこう考える。
自殺にせよ他殺にせよ、それは不幸であり、苦しみである。不幸や苦しみを減らすべきであると考え、反出生主義を唱えているのに、なぜ不幸や苦しみを増やすと思われるのか。それは完全に誤っている。
自殺にせよ、他殺にせよ、不慮の死にせよ、だ。盤珪禅師の不生の仏心ではないが（たぶん、本当にそうではないが）、不生というところなのだ。新たに生まれなければ、死ぬこともない。自然に不幸は起こらないし、あえて不幸を起こすこともない。
だいたい、新たに生まれてくる人間に、一生住んでよい土地も与えられなければ、一生食べていける食糧も用意できない。そして、人間同士の嫌がらせと悪意の闘争の中で自らの衣食住を奪い取り、なんとか生きてみたら、待っているのは惨めな死だけだ。いまだに人類はそんなところにいる。地獄のはらからたち。多少の例外はいるにしても。
もちろん、おれはおれの自殺について肯定的なことを多分に書いてきたような気もするし、今でも人の自殺するということについて問われたら、「ところで、PayPayで決済したら、iPhoneがペイペイ！ って言ったんだぜ」とかいって言い逃れするだろう。おれの軽佻浮薄を軽く見ないでもらいたい。
なので、軽いおれの言葉を読んで誰にも誤解されたくないとは思わないし、なにがなんでも真意を理解してもらおうなんて思っちゃいない。かといって、一度述べたことは絶対に撤回しない、誤りに気づこうと、自分の中に変化があろうと、自分が述べたことについては一切述べない、という鋼の意思があるわけでもない。どっちでもいい。
今は、気が向いたから、おれはこうして釈明のようなことをしているだけだ。おれがしたいからしている。おれの書いたものを読んで、おれが想像している以上に何かを見出すのも勝手だし、おれの考えていることの正反対の発想に至るのも勝手だ。むしろ、後者のほうが世界にとってはおもしろいかもしれない。まあ、どうでもいい。でも、いい大人が、コンビニで安いサラダを買って、iPhoneが「ペイペイ！」って言うのって、ちょっと滑稽だとは思わないか？
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