関西と船橋から飛んできた天狗に拉致されて、おれは都内某所のカラオケボックスで詰められた。おれは10曲連続で「歩兵の本領」と「メーデー歌」のちゃんぽんを歌った。歌ったあとに言われた。
「なぜ文芸誌に投稿しないのか?」
と、天狗。
「いや、恥ずかしいので」
と、おれ。
おれは恥ずかしい。恥ずかしいし、第一おれは文芸誌というものを手にとったことがないし、読んだこともない。おれが興味ある文芸というものは、おおよそ作者が故人であるものだけだ。
そしてやはり恥ずかしい。恥ずかしいったら、恥ずかしい。自分が書いたものをだれかに読ませて、評価してくれなど、恥ずかしくて、おそろしくて、できるものではない。
「じゃあ、写真の個展をやれ、文章と写真の個展だ」
と、天狗。
「平民金子さんの写真を見たことありますか。そんなの無理に決まっています」
と、おれ。
「では、同人誌の第二弾だ」
「平成氷河期ものか、スポーツものか、わいせつ石膏ものだ」
と、天狗たち。
「はあ」
と、おれ。
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関内関外日記アンソロジー#1 ずったら ずったら | ameroad
……というわけで、夏だか、秋だか、秋だか、秋だかに、二冊目の同人誌が出とか出ないとか、おれがわかっていないという時点で意味がわからない。
天狗が一人去り、新宿は歌舞伎町で引き続き詰められた。
またカラオケボックスで詰められた。おれは野坂昭如の「マリリン・モンロー・ノー・リターン」と「ヴァージン・ブルース」を交互に20曲歌った。
「もっと前に出ろ、人殺しの顔をしろ」
と、天狗。
「サー、イエス、サー」
と、おれ。
その後、焼き鳥のチェーン居酒屋で再び詰められた。夜の街はどこもかしこも焼き鳥のチェーン店ばかりで、いったいどれだけの鶏が殺されているのか空恐ろしくなる。いったいどれだけのおれが詰められているのか空恐ろしくなる。
夜の歌舞伎町はホストクラブばかりが目についた。無料案内所のネオンサインに白人の夫婦が目をむいて驚いていた。ラーメン二郎は深夜なのに行列ができていた。少し雨が降っていた。おれは「青年日本の歌」を口ずさみながら終電に乗った。昭和維新は遠くなった。あと一日か少したてば、もっともっと遠くなるおれの昭和は遠くなる。おれの令和がどうなるのか。おれに令和が訪れるのか。知っているのは歌舞伎町のキャッチだけだった。
「鳥貴族は一時間待ちです……」