マ・ドンソクを味わうなら、キム・ギドク『殺されたミンジュ』を

 

殺されたミンジュ

殺されたミンジュ

 

 このところ、マ・ドンシクが熱いらしい。よし、おれもマ・ドンソクを見るか、ということになる。検索してみると、『殺されたミンジュ』という映画が出てくる。なんとキム・ギドク作品だ。おれは一時期キム・ギドクにはまっていて、心の監督ベストテン第一位だったこともある。が、いつの間にかランクが下がっていて、この『殺されたミンジュ』も、「あ、キム・ギドクだったの」ていどだった。でも、だいたい8割以上はキム・ギドク作品見ているのでベストテンは維持している。

ここからはネタバレ全開で書きますので。

で、なにやら押井守ケルベロスもののようなパッケージ。これがミンジュ? 違う。殺されたミンジュは女学生だ。5月9日の夜、覆面をした複数の男たちに終われ、殺される。「ミンジュ」というのは韓国語で「民主」と同じ意味らしいが、それが意味するところはわかるようなわからないような。ちなみに、Google日本語で「ころされたみんじゅ」と打ったら、「殺された民需」とまず変換された。なにか財政の失敗のようだ。

それから一年経つ。企業なのか、なんの組織なのか、社会の勝ち組生活を送っている男がいきなり拉致される。蹴られ、殴られ、椅子に拘束され、目の前にマ・ドンソクという嫌なシチュエーション。そこでマ・ドンソクが紙と鉛筆を渡し、「5月9日にあったことをすべて書け」と言う。そう、拉致られたのは、5月9日にミンジュを追いかけ、捕まえ、顔をテープでぐるぐる巻きにして殺した男。……そして、男たち。次々に拉致られ、拷問され、「5月9日にあったことをすべて書け」と言われる。拉致る側は、「忠誠!」と挨拶する軍人風であったり、「滅共!」と挨拶する反共右翼風だったり、ヤクザ風だったりさまざまだ。だが、同じ連中だ。そして、リーダーはマ・ドンソク。

拉致られた男たちは5月9日にあったことを書かされ、血塗られた手で判を押され、恫喝され、解放される。

が、最初に拉致られたミンジュ殺しのメンバーは、復讐するために、かつての仲間を訪ねたり、尾行したりして、マ・ドンソク軍団の謎を追う……。

と、そこにあったのは、マ・ドンソク軍団の情けない日常なのである。女幹部は安アパートでDVをふるわれ、あるものは自動車整備工として社長にいびられ、あるものはウェイターとして金持ちに見下され、あるものはホームレスだ。そういった人間を、マ・ドンソクがインターネットの書き込みなどを見つけて集めたのが、謎の軍団だったのだ。

そんな負け組がなぜ犯人を探し出し、次々に拉致を成功させたのか。くわしい経緯は描かれない。ただ、元軍人のマ・ドンソクが腕力だけでなく頭も切れる男だったということだろう。負け組軍団の、アメリカ留学して帰ってきたはいいけど職が見つからず兄の家に居候しているやつとも英語で口論したりしていた。

で、拉致する対象もどんどんミンジュを殺したやつらの上の方へと上がっていく。一方で、女幹部は残虐さに耐えかねて抜けて行ったりもする。ついに、階級の高い軍人を拉致るが、そこでついに「お前らは偽物の組織だ」と喝破される。おもちゃの拳銃が、ばれる。が、しかし……。

と、ネタバレとか言っておいて全部書いてもしかたないし(小学生が感想文をあらすじで埋めるやつになってる)、そんなんで、どうなるか。

撮影までキム・ギドクがやったから、なんか安っぽい映像、という評価も見た。たしかにそうかもしれない。ただ。謎の軍団が本当に安っぽいコスプレ軍団だったわけで、そこんところは逆にリアルなのかもしれない。あと、マ・ドンソクの腕力は言うまでもなくリアルなので。

でもまあ、やっぱりラストの方まで言ってしまうと、「なぜミンジュが殺されなければいけなかったのか」というのは明かされない。各人が紙に何を書いたのかもわからない。たどり着ける一番のトップも拷問された末に「正直に言うと、知らない」と告白する。そこに、国家や組織と人間というものの、今となってはティピカルな関係というものがあるのだろうし、一方でそういったものがマ・ドンソク軍団の中にも現れる。そのどうしようもなさを描きたかったのだろうし、そこにたどり着いたがためにマ・ドンソクはああいう結末を迎えざるをえなかったのだろう。

あ、けっこう面白いかもしれない。見るべき。以上。

 

<°)))彡<°)))彡<°)))彡<°)))彡

<°)))彡<°)))彡<°)))彡

<°)))彡

 

キム・ギドク『The NET 網に囚われた男』を観る - 関内関外日記

 

零細の悲哀『嘆きのピエタ』 - 関内関外日記

 

嘆きのピエタ(字幕)

嘆きのピエタ(字幕)

 

キム・ギドクづくし『アリラン』 - 関内関外日記

 

アリラン [DVD]

アリラン [DVD]