マルク・マソン『双極性障害』を読む

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おれは双極性障害を患っている。なので、双極性障害について語られているものを読むと、いっちょかみしたくなる。が、おれはあくまで高卒の一患者なのである。医師でもカウンセラーでもなんでもない。単なる当事者だ。だが、当事者は語りたい。そして、語るときにはできるだけ正確でありたい。そう思っている。なので、できるだけ新しく、それほどメインストリームから外れていない知見を集めたく思う。「えのき茸を鼻から食べると双極性障害が治る」などという主張は排除しつつ(そんなこと言ってるやつはいないが)、できるだけ、新しく、広く、だ。

 

双極性障害 (文庫クセジュ)

双極性障害 (文庫クセジュ)

 

そんなんで手にとったのがマルク・マソンの『双極性障害』である。新書である。新書で『双極性障害』というと加藤忠史先生のちくま新書もある。

 

双極性障害[第2版] (ちくま新書)

双極性障害[第2版] (ちくま新書)

 

正直、後から出した方(これは第2版なのでこっちが新しいのだけれど)は、ちょっとタイトルを変えてみてもいんじゃないかと思った。だって、二つ並んでるんだぜ。

まあいい、いくつか気になったところをメモしておく。ちなみに、マソンさんの本はあくまでフランス向けに書かれており、病気に対する行政的な対策や制度などについては、あまり参考にならないかもしれない。ただ、この双極性障害躁うつ病)については世界共通で参考になるのではないか、とは思う。少なくとも「フォアグラを耳に詰めてガスバーナーで焼くと躁状態が治る」というようなことは書いていない。

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なかには、これは男性の事例で多いが、二次的もしくは初発のうつ病相のない、単極性の躁病相しか認められない双極性障害のタイプ[単極性躁病]もみられる。

「第二章 双極性障害の様々な徴候」

でも、いきなりびっくりしたのがこの記述だ。おれはずっと「単極性躁病は存在しない」と思って生きてきた。思って、というか、読んできた本の中にそうは書かれていなかったように思う、だ。通常からいきなり、躁病、通常に戻ってまた躁病、そういうことがあるのだろうか。今後は単極性躁病もあるという話もある、と気をつけねばならない。

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そして私は、19世紀当時よりもむしろ、原題の医学的進歩の恩恵を受けられている「いま」を生きていることに喜びを感じています。けれども、薬による変化は、楽にさせてくれはしても、そのような化学物質が自分のなかに革命的変化を引き起こすことに困惑しています。なぜなら、思考過程が、悲哀という湿原から離れ、もっとのどかな岸辺に戻ってくるだけでなく、思考内容や対象にまで変化が生じるからです。徹底的な悲観主義から脱するのですから!

「当事者ヴェロニク・ドゥフィエフ氏の証言」

これは少し前に話題になった林先生のサイトにあった問題と同じことだろう。

kokoro.squares.net

これについてはおれも思うところがあり、しかもまだわかりきっていないので、いずれまた考えよう、いや、いつも考えていよう。

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 運動性または行動面では、二通りの臨床形式が識別される。一つ目は、躁病発作とは真逆の、典型的な運動性の極度の制止(遅滞)である。その状態は、時に「カタトニア(緊張病)」もしくは「昏迷」と呼ばれ、ほとんど麻痺にまで至ることがある。二つ目は、焦燥性あるいは不安性のうつ病である。患者は、運動性の不安定さを呈し、陳述が困難なほどの苦痛な感情のために、じっとしていられない病態である。

うつ病相」

一つ目の「昏迷」はおれが「抑うつ状態」や「倦怠」と書いてきたような状態だろう。そして、「麻痺にまで至る」というのは、おれが「鉛様麻痺」と書いてきたような状態だろう。ただ、おれの「鉛様麻痺」は午前中だけベッドの上で固まっていて、昼頃に動くようになると、そのあと会社に行って普通に仕事をしてしまうようなものであって、ひどいラピッドサイクラーなのかもしれない。「昏迷」はもう少し長く続く。

で、問題は二つ目の「焦燥性」だ。おれはおれがよくわからない焦燥感に煽られ、歯ぎしりがとまらず、いらいら、そわそわするようになると、「躁転したのかな」と思ってきた。が、それも「うつ病相」であるならば、おれの「うつ病相」というものはもっと長いものであって、それほどラピッドサイクラーではないのかもしれない。

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 双極性障害を患う人たちは、とりわけ自殺の危険に晒されており、一般人口と比較して20倍も高いとされる。双極性障害患者の4割は、生涯を通じて少なくとも一度は自殺未遂を企て、1割は既遂してしまう。双極性障害患者の9割は、うつ病相のときに自殺企図を生じるのに対し、躁病相のときには1割しか生じない。

「自殺リスク」

よく言われていることに(つまりはおれはソースを指し示すことができないのだけれど)、「うつ病の人の自殺リスクが高まるのは、治りかけのときだ」というものだ。重い抑うつ状態にあるときは自殺という行動すらできない。それに関しては、おれも重い抑うつ状態、倦怠、昏迷に陥ったことがあるのでわかる。重力が自分にだけ強くなって、身体が動かせない。スプーン一つ持ち上げるまでにすさまじい労力が必要なのに、生きた人間を一人殺すというのは、本人の同意があったところで無理なのだ。そういう点から考えると、沈んだり、戻ったりを繰りかえすわれわれが、自殺しやすいタイミングを多く有するというのはありえる話だと思う。

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 19世紀末以降、エミール・クレペリンは1/3以上の躁うつ病患者でアルコール依存症がみられることを観察してきた。現在の比率も同じ程度で、一般人口より躁うつ病を患う人の群ではアルコール依存症の割合が3~4倍高いと推計されている。患者の25%が躁病相の経過中にアルコール消費量が増加し、うつ病相のときも15%でみられる。

「薬物中毒、薬物依存症(嗜癖)」

さあ、アルコール依存症度の高いおれには耳の痛い話だが、飲まなきゃやってられねえじゃんよ。そこんとこ、わかってくれよ。酒がだめなら大麻でもコカインでもくれよって、大麻やコカインにも言及あるな。そして摂食障害。なんていうのかね、全部うまくいってねえんだよ、おれ、おれたち。そして自殺で早死する……。

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 自殺リスクとは関係なしに、双極性障害患者の平均寿命は10数年ほど短い。この驚愕の事実が明らかになったことで、この20年来、数多くの臨床研究がすすめられてきた。

「身体疾患の依存症」

とかいってたら、「自殺リスクとは関係なしに」だってさ。肥満やそれに関する合併症、心循環器系や代謝内分泌系の疾患との関連性。

あるいは、これよ。

例えば、双極II型障害を患う人の半数近くに、片頭痛が一定頻度みられる。片頭痛症状は、頭部の片側に激しく感じられる拍動性の痛みであり、しばしば片頭痛性の「前兆」と呼ばれる視覚的徴候をも伴う。

視覚的徴候……。

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閃輝暗点よな。これも双極性障害と関係あったんかい。もう、嫌になるわ。これで、とってつけたようにゴッホやネルヴァルの話とかで、創造性がどうとか言われたところで、正直、生きるのが嫌になるよな。おれはリチウムでなくオランザピンを服用しているけど、これは糖尿病禁忌。だからおれは野菜ばっかり食ってる。本当はもっと放埒な食事をしたい。一方で、医師にはジョギングすら止められている。強迫性障害摂食障害が出るからだ。身体を動かせない分、食わないしかない。食わないところで人様並みの人生を送れるならまだいいが、疾患のハンデと知能の低さ、仕事のできなさ、対人恐怖、そういった総合的な生産性の低さから、社会の底辺を不安に怯えながら這いずるしかないのだ。ああ、本当になんなんだろうね、これは。どうしてこうして生まれてきてしまったのか。

よう、そこのあんた、生きるのに値する人生を送るっていうのは、どういう気持ちなんだ?

 

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……読んできた一般向け書籍については一番下の記事の下の方にリンクあるわ。