シャロン・テートが映画館に自分の作品を観に行くシーンがある。あまり大きな劇場ではない。客も満員というわけでもない。それでも、シャロンは幸せそうにスクリーンを観る。自分のコミカルな演技で、客が笑う。シャロンも笑う。アクションシーンでは、思わず手で特訓のポーズをする。拍手が起こる。シャロンは大喜びだ。
おれは「なんて素晴らしいシーンなんだろう」と思った。これは映画の美しい瞬間に違いないと思った。映画にまつわるすべての事柄のなかで、もっとも美しいシーンだと思った。シャロン・テートをそこに連れて行ったクエンティン・タランティーノは、なんて映画が好きで、いいやつなんだろう、と思った。おれは泣きそうになった。
というわけで、タランティーノの最新作、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観た。ブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオが主役として共演という豪華さ。しかし、その豪華のほとんどを「あるハリウッドの数日」に使ってしまうあたりが贅沢なのである。
それにしても、ブラッド・ピットの格好良さといったらない。どこでもいいから切り取ったら、それだけでジーンズのCMになってしまうだろう。あるいはアロハシャツの。
そして、ディカプリオ。『ジャンゴ』でも悪役でキレキレだったが、今回はハートの弱いスターとしてキレキレだった。一方で、劇中劇のなかの悪役もキレキレで、おまけによくわからないダンスもキレキレだった。自分自身にブチ切れるシーンでは、劇場で笑いが起きた。
そして、シャロン・テート役のマーゴット・ロビー。おれはよく知らない(というか、日米問わずあまり役者さんを知らないのだけれど)のだけれど、最初に書いた場面を含め、シャロン・テートを演じきっていた。
そして、さらなる主役というと、ハリウッドという街ということになるだろう。夜になって、さまざまなシアターのネオンが光りだす映像はとくに美しかった。おそらくは徹底して作り込まれている街の様子を見ていると、そこらへんに酔いどれのチャールズ・ブコウスキーが歩いてるんじゃないかと思えるようだった。
……というわけで、おれは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を気に入った。時間としては長いし、日常的なシーン(もっとも、われわれの「日常」とハリウッド・スターの日常は違うわけだが)も多い。それでも、おれは眠ることなく、飽きることなく最初から最後まで映画に没入できた。馬も車も犬もそれぞれが生きていた。とてもよかった。そういう映画だ。
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……こっちは同じハリウッドでも50年代。