ネズミを救えない

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図書館に行く道すがら、スナックのガラス窓の向こうにネズミがいるのを見た。夜、営業しているかしていないかもわからないスナック、ガラス、ネズミ。ネズミは右左と走ると、何度かジャンプした。奥の板に向かってジャンプした。ジャンプしたが、板は高すぎて上に届きはしない。ネズミの足の形状をおれはよくしらないが、壁をよじ登ることもできないようだ。また、右、左、と走る。いらいらしたように、床に置いてあるプラスチックの敷物を齧る。おれは、なにか動物園の展示のようだと思って携帯端末で写真を三枚くらい撮った。が、これは動物園の展示のようなものではないことに気づいた。ネズミ左右は塞がれており、上には届かない。こちら側は全面ガラスだ。完全に囲まれてしまって、どこにも出ようがないのである。監禁状態だ。このまま死ぬしかない。それに気づいたおれは、端末から写真を消去した。もともともなんのためのスペースかわからない。酒瓶や飾りなどをするスペースだったのかもしれない。だが、今はガラスの向こうに板が見えるだけだ。ただ、ネズミだけがそこにはまりこんでしまって、ガラス越しに、見ようによればかわいい姿を晒している。水も、食べ物もない。どこにも逃げられない。といって、おれであるとか、あるいは「ネズミさんかわいそう」と思った子供が、どうにかスナックの、あるいはスナック跡を管理する不動産屋などに連絡したところでなんになろうか。飲食店、あるいはその跡にドブネズミ。いくらかわいげがあろうが、害獣そのものである。逃してやろう、などということにもならないだろう。まわりの迷惑になる。そうなると、ネズミに待っているのは殺害しかない。唯一、ネズミが生き残るのは、ネズミの窮状を訴えた人間が「引き取って飼う」ということになるだろう。だが、おれには生物を「引き取って飼う」いろいろの余裕がない。願わくば、スナックが営業しており、その夜の営業でネズミに気づき、殺すのも嫌なので外に逃がすということくらいであろう。そうなれば、よいのだが。