しがない大人の映画『幸福路のチー』

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大人のための映画……というといろいろな映画があると思うが、この『幸福路のチー』は、本当に大人のための映画だと思う。大人といっても、なにか自己実現したとか、自己研鑽して上を目指している意欲あふれる、意識の高い大人ではない。どちらかといえば、自分の過去の選択に後悔し、自分の現状が思っていたようなものではない、というような大人だ。

言い過ぎたかもしれない。しかし、少なくとも、子供が見てなにか感じ入るところがあるかどうか、おれにはわからないのだ。これはどうも、しがない人間のために描かれた、いかんともしがたい話のように思えてならない。子供の頃の夢を取り戻せるとか、空想の世界に飛び立てるとか、生きる希望が湧いてくるとか、そういう感じではない。いや、そうであってもいいのだけれども、どうにも、おれには違った。

この映画が描いたのは「この世界の片隅」だ。そんな名前の名作に比べても、なにか大きな事件が起こるわけではない。ただ、しがない人間、それこそ、この世の大多数、ほとんどを占めるしがない人間の人生が描かれている。それしか描いていない。「この、圧倒的な展開」というものもない、「このシーン」というものも、どうかすればあやううい。それでも、たんたんと描かれてきた映画が終わる段になって、なぜかどうにも、涙が流れそうになる自分に気づかずにはおられなかった。おれには台湾語と北京語の話も、台湾の政局もわからない。わからないが、ここには人間というものが生きる、そして場合によっては大人になる普遍的なものがあるのだ。だから、大人のための映画だ。大人のためのアニメ、ではない。この泣き笑い、一見の価値がある。

ちなみに、読み方は「こうふくろのちー」。

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また、ジャック&ベティで鑑賞。ここはおれの観たい映画をやってくれるんじゃないかと思うと、やってくれるから、いい映画館だ。