黒いマスク族

おれはしばらくの間、マスク無い族の一人であった。マスク無い族は、マスクをつけずに外を歩くのだ。オフィスで仕事するのだ。そして、マスクする人たちの行き交う街なかで、同じマスク無装着者を見かけると、心と心で「マスクどこにも売ってないですもんね」、「仕方ねえよな」と交流するのである。

が、おれは先週風邪をひいた。高熱も出した。その後の、出社。やはりおれはただの風邪の病み上がりであっても、一応マスクしとくか、と思った。それ以来、おれはマスクする族になった。そうだ、おれはマスク無い族でありながら、自宅に10枚近い使い捨てマスクのストックを持っていたのである。むろん、アルコール消毒スプレーをかけての使い回し族である。とはいえ、使い捨てマスクを使い回すのにも限界が来るだろう。でも、マスクねえしな、とか思っていたわけだが……。

ふと、楽天など検索してみると、使い回せるポリウレタン製のマスクが3枚1,200円くらいで売っているではないか。ポリウレタン製のマスクの効果は知らない。そもそも、ウイルスを防ぐ、という意味は気休め程度。くしゃみや咳のなにかを飛ばさない、という意味ではいくらか効果あるかどうか。それよりも、「マスクしてますよ」というエチケット的態度、コロナ時代的衣装として必要なのだ。これを押さえておくか、と思った。楽天ポイントをいくらか使って、買った。すぐに届いた。色は、黒。そのとき、そのショップでは、黒しか大人用はなかったのだ。

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というわけで、黒いマスク族になったおれ。黒いマスクを初めて見たのはいつだったか。去年か、一昨年か、そのくらいだと思う。初めて見たときはギョッとした。このあたりは中国人も多く暮らしているので、中国あたりの流行かな、などと思った。だんだん、見る機会も増えてきたが、やはりちょっとギョッとするところはあった。

が、その黒いマスク族に、おれはなったのである。いい歳して、黒マスク、という思いはある。しかし、これしか売ってなかったんだからしょうがねえじゃん、というところである。と、これで街を歩いてみれば、おっさんや、市役所の作業着姿の黒いマスク族などもいるではないか。そこで、おれは心の通信でこう言うのである。「黒いのしかなかったんだから、しょうがないよな」と。

ちなみにこの黒いの、効果のほどは不明。ただ、ローテーションさせようと二つめのやつを使ったら、マスクの真ん中の上のところがピロっと裂け始めたので、あまり丈夫ではないかもしれない。中二心は少しだけ刺激される。つけてるときは見えないのでわからんけど。まあ、そんなところだ。

というわけで、おれはしばらく使い捨てマスク使いまわし族兼黒いマスク族として生きる。しばらくしたら、政府支給マスク族という新しいクランが街を歩くことになるだろう。街が封鎖されていなければ、だが。