蜘蛛とガジュマル

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おれは部屋の中にいくつか観葉植物を置いている。部屋というより、日当たりのある数少ない場所である台所の窓の前だ。

そのなかの一つで、「立派に育ったな」と思っていたのがガジュマルだった。100円ショップで買った小さなやつを、すこし大きめの鉢にうつしたらぐんぐん枝を伸ばし、葉を生い茂らせた。光を求めるあまり、ちょっと枝が不格好に伸びすぎてはいるが、悪くない。

そんなんで何年か経った。何年か経った去年の冬だったろうか、急に葉を落とし始めた。そりゃあ植物、葉を落とすことはある。が、いっせいに、まるで落葉樹のように落としていった。

ただごとではない。

そう思ったおれは、とりあず土を入れ替えてみた。すると、ポツポツと葉芽が出てきて、いくらか回復した。この調子でいけばいいのだが。

いかなかった。

まさかコロナウイルスは関係しないだろうが、ちょうどそのあたりの時期から、また葉を落とし始めた。

どうしたものか。

おれは最後の手段かどうかわからないが、鉢を外に出すことにした。今の季節なら気温に問題はない。そして、なにより日照量が違う。今まで窓の端っこの日照だけでよくこんなに葉をつけるものだ、と思っていたくらいだ。これを、一か八か外に出す。おれはそうすることにした。

ある朝、鉢を外に出して、水をやって、会社に行った。会社から帰って、鉢を見てみた。いきなり葉が出てくることなどない。

かわりに、小さな小さな蜘蛛が巣を作っていた。

なんという目ざといやつだろうか。葉の落ちた細い枝の間にいっちょまえの巣を作っているではないか。

蜘蛛というのはちょっととくべつな生き物だという感じがする。巣を作り、獲物を引っ掛ける。罠を作る(作らないやつもいるけど)。そのあたりに知性というのか、なにかちょっとすごいな、と思ってしまうのだ。おれは蜘蛛を殺さない。

翌日になると、巣は立体構造になっていた。小さな羽虫の残骸がいくつかひっかかっていた。好立地を即座にゲットして、目論見どおりの盛況のようだ。やるじゃねえか。

数日経った。ガジュマルからは少し葉芽が出てきているようだった。一方で、もとからついていた弱り気味の葉は、すこし傷んでいるようにも見えた。さて、うまくいくのかどうか。そして、小さな小さな蜘蛛はそのすみかを守ることができるのだろうか。

ところで、ガジュマルの横に生えている緑色の元気なやつがなんなのかおれは知らない。おれが種を土にねじ込んだのは確かだが、それがなにかなんて覚えているわけがない。