『DAVID BOWIE is』 is ……未来の音楽体験

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davidbowieis.jp

おれがこの世で一番美しいと思っている曲はデヴィッド・ボウイの「Life On Mars」であると何度か書いてきたように思う。おれはデヴィッド・ボウイが好きだ。とくに初期が好きだ。おれはブリット・ポップ、というかSuedeからさかのぼってグラム・ロックを聴くようになったからそうなのだ。一方で、女はおれが好きなあたりのボウイを中学だかのころに友だちからすすめられたがピンと来ず、いわゆるベルリン三部作でガツンと来たという。おれはあまりベルリン三部作にピンと来ない。チェンジしていくスーパースターならではなのか。

しかし、チェンジしていっても一貫している。一貫してスパースターで、それちょっと待てよ、とか思うような衣装も「むちゃくちゃかっこいい」で押し通してくる。天下御免のボウイ様だ。そこにしびれる、あこがれる、といいたいが、あこがれるなんておそれおおくて言えやしねえ。マジ、ボウイかっこいい。

ということで、天王洲アイルなどという大井競馬場か新木場のZeppへの通過点でしかなかったところへ出向いた。

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チケットは日付指定で10時台、12時台……というように売られていて、10時台で買えば12時まで入場が許される。入ってしまえば入れ替え制などでなく、いくらでもいていい。われわれは10時ちょっとすぎに到着した。当日券も売っているようだった。少し並んだ。並んだ先で、ヘッドホンとなんらかの受信装置を渡された。よく、美術館などの音声ガイドのやつだ。絵画展などであればオプションだったりするのだが、ここではこれが必須。必須なのだ。近づけば勝手に再生されるから、音量調整以外は触らなくていいということだ。

最初はなれないもので、同行者と会話もできないし、なんだかな、と思った。思ったが、これはデイヴィッド・ボウイの展覧会、博覧会、回顧展なのだ。音楽がついてこなきゃしょうがない。そして、われわれはすばらしい衣装やいかしたMVにに近づくことで、ボウイの名曲を聴くことができる。資料を前に音楽が聴けるのだ。これは……いいな。想像以上に面白い空間になっている。そう思った。たとえば、ライフ・オン・マーズ? のコーナーの前でずっとそれを繰り返し聴くことだってできるし、ヘッドホンを外す大音量3D音響コーナーにいることもできる。ボウイ尽くしだ。手書きの歌詞を見ながらでもいいし、目をつぶっていてもいい。なんだかわからないが、音楽をこんな風に体験するというのは、まったく初めてだ。ライブに行くのとも違うし、部屋や移動中にヘッドホンから聴くのとも違う、ネットで音源を漁っていくのとも違う。いやはや。おれなどは「ベスト・オブ・デヴィッド・ボウイ」が好きです、ていどのファンだが、ボウイを最高のアーティストだと思っている人にとっては天国以上じゃあないだろうか。それがおれの『DAVID BOWIE is』の感想だ。

そしてここからはおれの妄想なのだけれど、ライブ以外の音楽の接し方はこうなっていくのではないか、ということだ。資料や衣装がある、歌詞がある、解説がある。見ても見なくたってもいい。ライブも当時のものを体感できる。アルバム版を聴いてもいい。……どんなふうに? そりゃまあ……電脳空間ということになりますか。まあ、だから妄想なんだけど。それでもいいと思わんですか? なんかそのアーティストのデビュー前から初期、中期……あるいは現在進行形のものにまつわるさまざまなオブジェクト(?)にフラフラととりついて、音楽を聴く。リアル・ボディのライブはまた別物。そんなことを妄想した。まあ、Amazonプライムで(たぶん)全アルバム聴けてしまうというだけで充分未来的なのかもしれないが。

結局、10時少し過ぎに入場して、出たのは3時近くだった。それだけの充実はあった。すべてのMVを聴く、映像を見る、ということになったら、もっとかかったかもしれない。倉庫なので少し寒かったり(あと、帰りに2時入場の人達が無茶苦茶寒い外まで行列を作っていたので、10時の券がおすすめです)、あるいは解説の文字が小さくて読みにくいというあたりは改良の余地ありかと思うが、まあそんなことはどうでもいい。「自分、ベスト盤くらいしか知らないっすよ」とか、そんなファンでも楽しめるだろう。おすすめです、『DAVID BOWIE is』。

 

 『LOW』はあんまりピンとこないけど、このジャケットの絵は美しい。

 

ハンキー・ドリー

ハンキー・ドリー

 

このジャケットも美しい。イギリスのテレビだかラジオだかが「ボウイのアルバムどれが好き?」みたいなアンケートやったらこれが一位だったらしい(ソース忘れた)。 

 

Blackstar

Blackstar

 

『★』。見事な遺作、と言われている(発売直後に死去)。が、坂本龍一先生は「これは死を見据えた人の声ではない。もっとやりたいことがあったはずだ」と否定していた。なんとなく、坂本説に乗りたい。