感想文

誰でも(マ・ドンソクでも)よかった通り魔の末期-映画『悪人伝』

悪人伝(字幕版) マ・ドンソク Amazon 悪人伝(吹替版) マ・ドンソク Amazon よく、無差別殺人、通り魔事件の供述で「誰でもよかった」というものがある。それに対して、「誰でもというのに、女性や子供など無力なものを狙っているのはおかしい」という声もあ…

穂村弘対談集『あの人に会いに』を読む 谷川俊太郎、横尾忠則、萩尾望都、甲本ヒロト……

あの人に会いに 穂村弘対談集 作者:穂村 弘 毎日新聞出版 Amazon 自分の求めるものが、一度も会ったことのない誰かがつくった作品の中にあるに違いない、と思い込んだのはどうしてだったか。わからない。実際、手に取った本のほとんどはぴんとこなかった。で…

これが本場の戦車道 映画『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』を観る

T-34 レジェンド・オブ・ウォー (字幕版) アレクサンドル・ペトロフ Amazon ロシア映画である。ニキータ・ミハルコフが製作に名を連ねている映画である。そして、戦車映画である。 戦車映画、というジャンルがあるのかどうかよくわからない。「潜水艦もの」…

池澤夏樹『夏の朝の成層圏』を読む

夏の朝の成層圏 (中公文庫) 作者:夏樹, 池澤 中央公論新社 Amazon おれは今年になって池澤夏樹作品を読み始めた。たしか、たぶん。そして、『夏の朝の成層圏』はとても読みたい作品だった。 なぜか? タイトルがかっこいいからだ。 タイトルがかっこよくて悪…

山際淳司『空が見ていた』を読む

背番号<29>をつけたピッチャーがマウンドに立っている。 次のバッターを迎えるところだった。ロージンに手を伸ばす。そしてバッターを見る。いつものしぐさだ。その評定はさきほどまでと変わらない。変わらないが、しかし、彼の心の中でぽっと燃あがるもの…

穂村弘対談集『どうして書くの?』を読む

どうして書くの?―穂村弘対談集 作者:穂村 弘 筑摩書房 Amazon 穂村 『さようなら、ギャングたち』を読んだ時、ぼくがイメージする理想的な詩集だと思ったんですね。 おれの人生にとって『さようなら、ギャングたち』は特別な小説だ。おれにとって最高の小説…

おれが法について知りたいこと 住吉雅美『あぶない法哲学』を読む

あぶない法哲学 常識に盾突く思考のレッスン (講談社現代新書) 作者:住吉雅美 講談社 Amazon おれが法について知りたいことは、なぜ自分で選んで生まれてきたわけでもない国の法律に、自動的に契約させられてしまうのだろうか? ということである。その契約…

思ったよりビターな『劇場版SHIROBAKO』を観る

劇場版SHIROBAKO 豪華版 [Blu-ray] 木村珠莉 Amazon 『SHIROBAKO』は好きなアニメだったと思う。ラジオも聴いていた。が、劇場版はとなると去年……コロナ禍が始まった頃か。映画館に観に行くことはなかった。ようやく観た。 思ったより、ビターだった。 なに…

『透明人間』(2020年の映画)を観る

透明人間 (字幕版) エリザベス・モス Amazon 僕は透明人間さー。って、2020年に透明人間の映画である。「おれが透明人間になったら、女子更衣室とか、女風呂とか、覗いちゃうもんねー、ぐふふ」というわけにはいかない。それでは芸がなさすぎる。というか、…

あんたは『第五の季節』を読む

第五の季節 〈破壊された地球〉 (創元SF文庫) 作者:N・K・ジェミシン 東京創元社 Amazon これは、世界の終わりの物語―数百年ごとに“第五の季節”と呼ばれる破局的な天変地異が勃発し、文明を滅ぼす歴史がくりかえされてきた超大陸。その世界には、地球と…

『イジらないで、長瀞さん』1巻~10巻のそれぞれの見どころを紹介したい

本日、『イジらないで、長瀞さん』の10巻を入手した。現在、ネット通販の主たるサイトでは品切れになっている。やがて流通するだろう。とはいえ、おれはすぐに10巻を読みたかった。おれはそれを伊勢佐木モールの有隣堂で入手した。神よ、讃えよ、有隣堂の地…

穂村弘『もしもし、運命の人ですか。』を読む

もしもし、運命の人ですか。 (角川文庫) 作者:穂村 弘 KADOKAWA Amazon また穂村弘の本を読んだ。穂村弘の本ばかり読んでいる。いや、ほかの本も読んでいる。しかし、すっきりと読み終えられるのは穂村弘の本ばかりなのである。 本書は、おもに恋愛について…

どれだけ遅く歩けるか 安部勇磨「Fantasia」を聴く

Fantasia アーティスト:安部勇磨 Thaian Records Amazon おれがここ数年で好きになったアーティストといえばnever young beachである。ほかにもいろいろあるが、ともかくネバヤンが一番なのである。 そのネバヤンのボーカル、安部勇磨がソロでアルバムを出す…

2021年 春アニメベスト3

ベスト3と言いつつとりあえず現時点で最終話まで見たものをメモ。こちらのサイトの並び順で。 2021春アニメ一覧|今期4月放送開始 新作アニメ・再放送アニメ情報 | アニメイトタイムズ イジらないで、長瀞さん これはもう単独でエントリーを書いてしまったの…

アニメ『イジらないで、長瀞さん』が終わってもうた

おれには苦手な漫画、アニメのジャンルがある。苦手というより、無関心といったほうが近いかもしれない。それは、そのジャンルは「ラブコメ」という。ハーレムものだろうか、妹ものだろうが、興味がわかない。アニメについては見られるかぎりすべて二話くら…

新しい宇宙世紀の「ガンダム」! 映画『閃光のハサウェイ』を観る!

なんとなくネットに評判のよいヴァイブスが広がっているのを感じて、おれは『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を観に行った。なぜか当日からの予約のみで、一切の割引設定無しという上映だった。 映画には一人で行った。女はガンダムを知らぬ。ガンダム…

令和になってもスターバックス怖いおれ―穂村弘『人魚猛獣説 スターバックスと私』を読む

人魚猛獣説 (スターバックスと私) 作者:穂村 弘 かまくら春秋社 Amazon また穂村弘の本である。「スターバックスと私」ときたもんである。なにやら2008年にスターバックスのウェブサイトのクリスマス企画を単行本化したものらしい。スターバックスのお客さん…

『ゴブリンスレイヤー GOBLIN'S CROWN』を観る

ゴブリンスレイヤー GOBLIN’S CROWN 梅原裕一郎 Amazon テレビアニメが好評で劇場版がみたいな話で、二期も決まっていてみたいなゴブリンスレイヤーさんの話で、テレビ版と同じく無慈悲にゴブリンをぶっ殺しまくっている話でした。おわり。 ……って、まあ、そ…

穂村弘 『世界音痴』を読む

世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫) 作者:穂村 弘 小学館 Amazon また穂村弘の話をしてる……。 というくらい穂村弘の本を読んでいるが、とりあえずこれで一休みだろうか。 しかし、暗い回転寿司の写真だ。とはいえ、おれが借りたのは文庫ではなくソフトカバー版で…

きみは一冊29,700円(税込み)の本を買ったことがあるか?

きみは一冊29,700円(税込み)の本を買ったことがあるか? おれはある。 シオランの『カイエ』どーん。 うおー高い! なんでこんなに高いかよ。おれにはわからん。わからんが、おれはシオランの『カイエ』を自分のものとしたいという思いが強かった。ただ、…

短歌とはなんぞ 穂村弘『ぼくの短歌ノート』を読んだ

ぼくの短歌ノート (講談社文庫) 作者:穂村 弘 講談社 Amazon ぼくの短歌ノート 作者:穂村 弘 講談社 Amazon また穂村弘かよというとまた穂村弘である。とはいえ、今度の穂村弘は本業の短歌の……「読み解きエッセイ」とあるな。やっぱりエッセイか。 ところで…

穂村弘『野良猫を尊敬した日』を読む ―どうしても書きたいことがあるから書くのか?

野良猫を尊敬した日 (講談社文庫) 作者:穂村弘 講談社 Amazon このごろ穂村弘の本ばかり読んでいる。読むのが楽だからだ……というと、なんか失礼な感じがする。とはいえ、読んでいて楽になれる感じはある。このところおれは心身ともに弱っていて、ちょっとむ…

『三島由紀夫vs東大全共闘』を観る

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 三島由紀夫 Amazon 「自民党の議員から反暴力の署名を頼まれたが、生まれてから暴力を悪いと思ったことがないから断った」 「自民党はもっと反動であってほしいし、共産党はもっと暴力的であってほしい」 「人間やると…

穂村弘『にょにょにょっ記』を読む

blog.tinect.jp またまた寄稿いたしました。 それにしても、タイトルの付け方がすげえよな。 おれにはちょっと書けなかった。 中身は一緒だけれど、これなんだよ、これ。 これがないからおれはパッとしないんだよな。 ……って、読んだ? 読みました? 読んだ…

印象が薄い 映画『生きちゃった』を観る

生きちゃった 発売日: 2021/03/05 メディア: Prime Video 映画『すばらしき世界』を観て、「仲野太賀は映画を一翻上げる役者なのでは?」と思った。思ったので近いところの出演作である本作を観てみた。なにやらNTRものらしさもあり、これで二翻だ。 ……が、…

この世界のド底辺で―『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』を観る

屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ(字幕版) 発売日: 2020/06/17 メディア: Prime Video www.youtube.com もうなんというか、ここまでド底辺のドブ臭い映画というのは珍しい。どんなきれいごとも、救世軍も通用しない、地獄の門が開いちゃったような感じ。 …

これは恋の夢 穂村弘『現実入門』を読む

現実入門―ほんとにみんなこんなことを? (光文社文庫) 作者:穂村 弘 発売日: 2009/02/01 メディア: 文庫 「エッセイ集『世界音痴』拝読しました」 「ありがとうございます」 「とても面白かったです」 「ありがとうございます」 「で、当社でもエッセイの連載…

短歌はわからんな……穂村弘『シンジケート』『ドライ ドライ アイス』

シンジケート[新装版] 作者:穂村弘 発売日: 2021/05/19 メディア: Kindle版 ドライ ドライ アイス (現代短歌セレクション) 作者:穂村 弘 メディア: 単行本 先日読んだ穂村弘の『にょっ記』はたいへんおもしろかった。 goldhead.hatenablog.com ならば本業…

池澤夏樹『アトミックス・ボックス』を読む ……なんというか、普通だな

アトミック・ボックス (角川文庫) 作者:池澤 夏樹 発売日: 2017/02/25 メディア: 文庫 父には知らない顔があった。美汐、27歳。28年前の父の罪を負って娘は逃げる、逃げる。追ってくる相手はあまりにも大きい──。「核」をめぐる究極のポリティカル・サスペン…

タルホ的、あくまでタルホ的な

こんな本があった。 稲垣足穂詩文集 (講談社文芸文庫) 作者:稲垣 足穂 発売日: 2020/03/12 メディア: 文庫 まあ、稲垣足穂については本人が言うところのこれに尽きるのだが。 この物語を書いたのが十九歳の時で、以来五十年、私が折りにふれてつづってきたの…