読書

自分の内と外とは? 『記憶する体』を読む

記憶する体 作者:伊藤亜紗 発売日: 2020/04/15 メディア: Kindle版 おれが「身体」と書いたら、「からだ」とルビをふるのが正しいと言っておきたい。おれは身体について興味がある。これだけ書くとへんな感じだが、なんというか、自分も含めた人間というもの…

反出生主義者はへこたれない 森岡正博『生まれてこないほうが良かったのか?』を読む

生まれてこないほうが良かったのか? ――生命の哲学へ! (筑摩選書) 作者:正博, 森岡 発売日: 2020/10/15 メディア: 単行本(ソフトカバー) おれは反出生主義者を自認している。 おれの反出生主義は、シオランを読んで目覚めたものでもなければ、べネターを読…

小川一水『コロロギ岳から木星トロヤへ』を読む

コロロギ岳から木星トロヤへ 作者:小川一水 発売日: 2013/11/15 メディア: Kindle版 おれは小川一水の『天冥の標』を読んだ。すばらしい読書体験だった。小川一水はほかに二冊くらい読んだかもしれない。『コロロギ岳から木星トロヤへ』は未読だった。未読だ…

オストアンデル! 『俗語発掘記 消えたことば辞典』を読む

俗語発掘記 消えたことば辞典 (講談社選書メチエ) 作者:米川明彦 発売日: 2016/12/23 メディア: Kindle版 広大なネットのどこでなにを読んだのだか忘れてしまったが、「死語おもしろいな!」と思ってこの本を手にとった。あるいは、この本の紹介を読んだのか…

池澤夏樹『スティル・ライフ』を読む

スティル・ライフ (中公文庫) 作者:池澤夏樹 発売日: 2020/09/30 メディア: Kindle版 スティル・ライフ (中公文庫) 作者:池澤 夏樹 発売日: 1991/12/10 メディア: 文庫 おれと池澤夏樹、池澤夏樹とおれ。 おれはこれまでの人生で、とくに池澤夏樹を意識した…

いまさらウイルスについて学ぶ 『ウイルスと人間』、『病原体から見た人間』を読む

いまさらながら「ウイルスってなんだろう?」と思った。なので本を読むことにした。わからないことがあれば本を読む。ロックンロール・バンドとウェブサイトは信じちゃいけない。 もっとも、ろくでもないインチキが書かれている本も数多く出版されているのだ…

幻覚剤を使わない人生に意味はあるのか? 『幻覚剤は役に立つのか』を読む

幻覚剤は役に立つのか 亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ 作者:マイケル・ポーラン 発売日: 2020/06/26 メディア: Kindle版 原題は「HOW TO CHANGE YOUR MIND」。邦題は『幻覚剤は役に立つのか』。幻覚剤は役に立つのか? 役に立つに決まってんだろ。…

石牟礼道子『色のない虹』を読む

石牟礼道子<句・画>集 色のない虹 作者:石牟礼道子 発売日: 2020/02/15 メディア: 単行本 石牟礼道子の作品に向かい合うのはたいへんな力がいる。が、〈句・画〉集ならどうか? そう思った。 思いのほか力が必要だった。まず、おどろかされるのが画だろう。…

『かなざわいっせいさんの仕事』を読み涙する

かなざわいっせいさんの仕事 作者:「かなざわいっせいさんの仕事」製作委員会 発売日: 2020/12/19 メディア: 単行本(ソフトカバー) おれの競馬の初めには、別冊宝島競馬読本があった。 ついてこられない人間は置き去りにする。 別冊宝島競馬読本は、ムック…

石牟礼道子に相対するには力が要る 『水はみどろの宮』を読む

水はみどろの宮 (福音館文庫 物語) 作者:石牟礼 道子 発売日: 2016/03/10 メディア: 単行本 おれは石牟礼道子を偉大な文学者にして「おばあさま」のような存在と思っている。しかし、全部読んだとは言い難い。むしろ、あまり読んでいないといってもいいかも…

ビギナーズ・クラシックス日本の古典『梁塵秘抄』を読む

梁塵秘抄 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫) 作者:後白河院 発売日: 2012/11/05 メディア: Kindle版 石牟礼道子と伊藤比呂美の対談本を読んだ。その対談の真ん中に置いてあるような本が『梁塵秘抄』だった。 反出生主義者が、「死」に…

高村薫の頼まれ仕事『空海』を読む

空海 作者:高村 薫 発売日: 2015/09/30 メディア: 単行本 goldhead.hatenablog.com 『生死の覚悟』のなかで、高村薫が空海について書いた本があることを知った。頼まれ仕事で、そんなに熱心になったわけでもないような空気が伝わってきた。それでも一応、読…

生と死の二冊の対談本について

blog.tinect.jp またBooks&Appsさんに寄稿させていただきました。また場違いな話なような気もしますが、ありがたいことです。よろしくお願いいたします。 新版 死を想う (平凡社新書0884) 作者:石牟礼 道子,伊藤 比呂美 発売日: 2018/07/13 メディア: Kindle…

信心は言葉で表せるのか? 高村薫・南直哉『生死の覚悟』を読む

生死の覚悟 (新潮新書) 作者:髙村薫/南直哉 発売日: 2019/05/15 メディア: 新書 高村薫とおれ、おれと高村薫。若いころ、高村薫の小説に打ちのめされていた。とくに衝撃だったのは小説『レディ・ジョーカー』での競馬場シーン(たしかアジュディケーターが走…

『街の公共サインを点検する』を読むのこと

たまには仕事に関する本も読む 街の公共サインを点検する 作者:弘之, 本田,一成, 岩田,秀男, 倉林 発売日: 2017/07/25 メディア: 単行本 これは読んでみなくちゃな、と思っていた本である。が、実際に読んでみると、そこまで読んでみなくちゃな、と思う必要…

戦闘民族日本人がまた髪の話してる……『カミが見ていた世界の歴史 魔女の黒髪 天使の金髪』を読む

「なんで日本人はちょんまげなんて珍妙な髪型をしていたのだろう?」という疑問は昔から持っていた。持っていたが、べつに喫緊の課題というわけでもなく、「お前も元服したのだから」という話もなく、放っておいた。 放っておいたところで、やはり何十年越し…

ドーダの誕生、そして文章術 東海林さだお『もっとコロッケな日本語を』

もっとコロッケな日本語を (文春文庫) 作者:東海林 さだお 発売日: 2006/06/09 メディア: 文庫 会話というものがありますね。 急に、ありますね、なんて言われて、 「あるよ、そりゃあ」 と怒り出す人もいるかもしれないが、ま、落ちついてください。 人間は…

鈴木智彦『サカナとヤクザ』を読む

サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~ 作者:鈴木智彦 発売日: 2018/11/02 メディア: Kindle版 午後10時過ぎ、役員はカウンターで白河夜船となった。目を覚ました際に、「築地で密漁アワビは売ってるんですか?」と質問した。 「ああ…

人は案外死なないけれど、簡単に殺せたりもする 鈴木智彦『全員死刑』を読む

全員死刑: 大牟田4人殺害事件「死刑囚」獄中手記 (小学館文庫) 作者:智彦, 鈴木 発売日: 2017/11/07 メディア: 文庫 全員死刑、である。どこの全員か。九州のヤクザ家族四人、父、母、兄、弟の全員が死刑判決を受けた。これである。その「弟」の手記が中心と…

東海林さだお×赤瀬川原平『ボケかた上手』を読む

ボケかた上手 作者:東海林 さだお,赤瀬川 原平 発売日: 2003/07/17 メディア: 単行本 おれは鹿島茂が「ドーダ」について言及しているのを読んだ。「ドーダ」の始祖は東海林さだおということになる。ということで、東海林さだお、赤瀬川源平の対談にたまにゲ…

ダービージョッキーと名人 『Number』を読む

Number(ナンバー)1012号[雑誌] 発売日: 2020/10/08 メディア: Kindle版 将棋特集で買った「Number」。今度は競馬特集で買った。おれは「競馬の天才」というもっとどろどろした競馬雑誌を毎月買っているので、「Number」を買うこともないのだが、次の記事が…

鹿島茂『悪の箴言 耳をふさぎたくなる270の言葉』を読む

悪の箴言(マクシム) 耳をふさぎたくなる270の言葉 作者:鹿島茂 発売日: 2018/03/02 メディア: 単行本(ソフトカバー) マクシム(Maximes)というのはラ・ロシュフーコーの著作が元になった言葉で、「辛辣な人間観察を含んだ格言、箴言」という意味らしい…

SFアジアン武侠ファイナルファンタジー 『翡翠城市』を読む

翡翠城市 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:フォンダ リー 発売日: 2019/10/17 メディア: Kindle版 ケコン島――それは選ばれし者グリーンボーンたちの島。彼らは、島の貴重な天然資源である翡翠のエネルギーを制御することによって、怪力、敏捷、感知など…

『ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言』を読む

「先刻勝利を収めた戦争では、多くの英雄たちが戦闘機で飛び回った。しかし、次の戦争では無人の戦闘機で戦うことになるかもしれない。……昨今の航空戦について学んだことはいったんすべて忘れ、次世代の航空戦のために備えよう。それは、世界の常識をくつが…

南直哉『語る禅僧』を読む

語る禅僧 (ちくま文庫) 作者:南 直哉 発売日: 2010/11/12 メディア: 文庫 著者いわく、自分は自分の著作の話をされるのが嫌なタイプらしい。排泄物の話をしているような気になるし、排泄物をしげしげと見ないように、自分の本を読み返さないという。 が、こ…

思えば初めてスティーヴン・キングを読んだ 『短編画廊』

短編画廊 絵から生まれた17の物語 (ハーパーコリンズ・フィクション) 作者:ローレンス ブロック,スティーヴン キング,ジェフリー ディーヴァー,マイクル コナリー,リー チャイルド,ジョー・R ランズデール,ジョイス・キャロル オーツ,ロバート・オレン バト…

玄侑宗久『荘子と遊ぶ 禅的思想の源流へ』を読む

荘子と遊ぶ (ちくま文庫) 作者:宗久, 玄侑 発売日: 2019/08/09 メディア: 文庫 荘子と遊ぶ ──禅的思考の源流へ (筑摩選書) 作者:玄侑宗久 発売日: 2019/01/11 メディア: Kindle版 日本に入ってきた仏教は、中国起源の思想を大いに取り入れたものである。と、…

ウンベルト・エーコ『ヌメロ・ゼロ』を読む

ヌメロ・ゼロ (河出文庫) 作者:ウンベルト・エーコ 発売日: 2018/12/14 メディア: Kindle版 ウンベルト・エーコとおれ。おれとウンベルト・エーコ。中学生のころだろうか、背伸びして『薔薇の名前』を読んだように思う。さらに背伸びして『フーコーの振り子…

リチャード・ブローティガン詩集『チャイナタウンからの葉書』を読む

チャイナタウンからの葉書 (ちくま文庫) 作者:リチャード・ブローティガン 発売日: 2011/05/12 メディア: 単行本 目次を見る。「競馬」という題の詩を見つける。おれはとりあえずそこに飛ぶ。そうしたら、こんな詩だった。 Horse Race July 19, a dog has be…

フェルナンド・ペソア短編集『アナーキストの銀行家』を読む

アナーキストの銀行家;フェルナンド・ペソア短編集 作者:フェルナンド・ペソア 発売日: 2019/06/18 メディア: 単行本 なにか新しいペソアの短編集が出ていたので読んだ。おれはポルトガルに縁はないが、フェルナンド・ペソアは好きである。 goldhead.hatenab…