『高い城の男』フィリップ・K・ディック

goldhead2004-10-09

 これはディック長編の中でも評価が高い作品。枢軸国が第二次世界大戦に勝ったという設定の世界で、舞台になっているアメリカも日本とドイツに分割統治されるような形だ。大戦の結果が逆だったら、というifの作品と言えば、ミステリ小説『ファーザーランド』(ロバート・ハリス)や、押井守の一連のケルベロス作品を思い出す。また、巻末解説を読むに、SFでは比較的多い素材らしい。
 そして、そのifを逆手を取るように、作品中に「連合国が戦争に勝ったif」を描いた小説が出てくる。それがディック独特の世界観であるところの、現実の二重性みたいなものを象徴しており、この作品の肝だ。そして、その匙加減が実に絶妙なのだ。そのバランス、あるいは調和は、なかなかお目にかかれない。そう、この作品は大どんでん返しやカタルシスが待っているようなものではない。主人公の大活躍も、その世界を揺るがすような発見もない。それなのに、ここまでの余韻と印象を残せるのか、というような感じ。
 それは‘易’のお陰かも知れない。いつか卦の勉強でもしようか。競馬にも活かせるかもしれない。当たるも八卦、当たらぬも八卦