人間の不幸/台風について

人間の不幸というものは、みなただ一つのこと、すなわち、部屋の中に静かに休んでいられないことから起こるのだということである。―パスカル

 台風が関東地方を直撃した。この日は一日中雨戸を閉めて、ガタガタ揺れるアパートの中で過ごした。しかし、やはり外が気になり、ユニットバスの窓を開けて外を覗いたりした。アホみたいな暴風だ。暴風と言うより、絶え間ない突風。バカみたいに雨が飛んでいく。映画のセットか、お笑い芸人の罰ゲームみたいだ。
 この台風で何人かの人が亡くなった。その理由は‘屋根の修理’だとか‘裏山が崩れたのを見に行った’とかそういうものだ。たしかに、‘台風の中で外に出るのは劣等種’かもしれない。しかしだ、やっぱ何か気になる。ちょっと外に出たくなる。大雪とかもそうだ。だけどまあ、大人は意味もなくワーイワーイ言いながら外に出るわけにはいかない。そこで、何か修理をしなきゃ、様子を見なきゃという合理的理由がささやくのだ。これは悪魔のささやきだ。アダムとイヴをそそのかした悪魔のささやきだ。
 たとえそれがパスカルの言うように不幸を起因することだとしても、嵐の中、洞窟の中でじっとしていたら、人はいつまでもサルのままだっただろう。この台風で、今までの台風で、これからの台風で、人間の不幸を引き受けて死んだ全ての人類に冥福を。
 ただ、74歳の新聞配達人が川に流されたというニュースは別だ。俺は、どんな悪天候でも新聞が届く社会は素晴らしいと思うけど、そのために人が死なない社会の方がマシだと思う。そっちの方が半馬身くらいマシだと思う。