目を開けていられない

goldhead2004-12-20

 目とは関係ない話から書く。巨匠や名人と呼ばれる人たちには、それぞれ独自のスタイルがある。寺山修司がスピード指数から競馬を論じたり、近藤唯之が統計データからプロ野球を論じたらどうなると思いますか。それはそれで読んでみたいじゃありませんか。しかし、世の中にはスタイルを変えるのがスタイル、という巨匠もいるのだ。私にはその根柢までは分からないが、スタンリー・キューブリック監督(九九年心臓発作で死去)はその一人ではないかと思う。どれをとっても個性的で、本当に一人の監督が撮ったのかと思うと、私は恐れ入るばかりである。
 そんな中でも異彩を放つ作品に『時計じかけのオレンジ』がある。その中で、主人公のアレックス坊やが‘ルドヴィコ療法’で人格改造をされるシーンが出てくる。その療法たるや、人間の罪悪を集めたフィルムを、ぶっ通しで見させられるというもの。「そんなの目をつぶればいいじゃないか」とおっしゃる方もいるだろう。しかし、二十世紀最後の巨匠と呼ばれる男はちゃーんと考えている。「目を開きっぱなしにすればいいじゃないですか」と。そう、哀れアレックス坊やは両目を開きっぱなしに固定され、自動点眼装置の恩惠にあずかるはめになったのだ。
 私はその話を思い出して、世間の狭さを知った。何を隠そう私も自動点眼装置が欲しいほど目が乾いているからである。しかも、安月給の悲しさか、金が無いから眼科へも行けないといった有様だ。特に今日は朝から目を開けていられないほど酷く、早く家に帰って発泡酒をあおって寝っ転がってしまいたいところだが、そうもいかないところが年末なんだなあ。
 そこで私は、インターネットで検索してみたのである。とりあえず、Googleで検索して一番上のサイトへ行く。すると、自己診断ゲームがあるじゃないですか。昭和生まれには、この最新技術に平伏するばかりである。世の識者たちはネットの害悪ばかり言うけれど、技術の進歩がなければ、人間いつまでも洞穴で暮らしているのだ。しかし、私は次の一文を読んで、思わず「バカにするんじゃない」と叫びそうになってしまったのである。
http://www.help-dryeye.com/game/index.html

下の クイック チェック スタートボタン をクリックすると、10秒カウントウオッチが動き出しますので、10秒間、目を開けていられるか試してみてね!

 大の大人に十秒間目を開けていろという。この素っ頓狂なテストに、「生まれたての赤ん坊でもあるまい、できないはずがないだろう」、そう思ってクリックしたのだが、これが本当に開けていられないんだなぁ。どんなに歯ぎしりをしながら耐えようとしても、七秒で力尽きてしまう。
 男の人生なんて不思議なものである。二十五年の人生を生きてきて、それなりに成長したつもりでいても、たった十秒続けて目を開けることすらできない。嫌な上司にバカにされるより、ずっと嫌なことじゃないですか。それなのに、悔し涙すら出てこない。やはりドライアイには眼科医の治療が必要だというのか。