背番号の消えた人生

http://www.asahi.com/national/update/1221/039.html

犯行時、複数の金融会社から計80万円の借金があり、利子分の3万円の返済期限が18日だったといい「借金を断られたので殺してでもカネを奪おうと思った」と話しているという。

  私は今朝テレビをつけ、アナウンサーが他の話題をしている後ろに、仰天・絶句のスポーツ紙一面が映っていた。「ロッテ」「投手」「奪三振王」、そして「殺人」とあったのだ。「なぜ牛島がそんなことを」と思ったのが第一感であった。頭の中で「村田兆治ではないな」と、ただそれだけの判断である。しかし、これも私の起きたばかりの脳のエラーであって、殺人犯は小川博という名であった。長い日本プロ野球の歴史で、三振ばかりでなく強盜目的で人の命を奪ったのは、この小川しかいない。そして私が、「ロッテ」「投手」「奪三振」から牛島と村田の名しか連想しなかったことに、この悲劇の根底がある。
 もしも彼が巨人の選手だったらどうなったと思いますか。「元巨人の奪三振王」の肩書きで、現役時代ほどではなくても、肩で風を切って歩いていたはずである。ところが、これがロッテとなると、息を切らせて死体を捨てに行くはめになる。それは北極と南極ほどの違いじゃありませんか。
 フリーエージェント宣言していた仁志内野手が巨人に残留濃厚という。選手はみな巨人に行きたがるし、巨人の肩書きのまま現役を終えようとするのである。まさに、リストラに脅え、寄らば大樹の陰とばかりに大木にしがみつこうとする我々サラリーマンの姿そのものじゃありませんか。昭和生まれで不況に泣く私は、とてもじゃないが巨人にすがる選手を笑うことができない。彼らとて、大なり小なり「小川博」となってしまった先達の姿を見ているはずなのだ。そこで「俺はああなりたくない」と思うのは当然じゃありませんか。
 しかし、である。巨人という大木はもはや見せかけだけで、中身は病害虫に食われてスカスカという実情なのだ。そんなスカスカの大木ならぬワラにすがろうと、保身しか考えない野球選手。そんな野球のどこに夢がありますか。私は仁志にメジャーに行ってほしかった。そして、次のようなセリフを聞きたかったのである。「ランディ・ジョンソンなんてセ・リーグだったら中継ぎ程度でしょ」と。