前田智徳の日

http://www.sponichi.co.jp/osaka/ser2/200501/11/ser2175061.html

「松坂とは対戦したことがない。10年前なら互角に戦えたかもしれんが、今は打てん。最近覚えたチェンジアップを投げないでほしい」。

 「不動不惑 前田智徳」という応援幕をテレビで目にすることがある。そのたびに私は、そのフレーズがぴったりであるとも思い、逆に全然違うのではないかとも思う。前田は、「孤高の天才」「現代のサムライ」などという大仰な形容句に見劣らぬ才能や、野球への追究を持つ男である。しかし、それと同時に、我々は動じる前田、惑う前田も多く目にしてきたからだ。脚が思うように動かず、チャンスで凡退し、ベンチで泣いているのではないかという前田を。そして、どうも私は後者の前田に惹かれるのである。
 普通、プロの選手は上のような弱音を吐かない。吐いたとしてもジョークとわかるジョークである。ところが、この発言が前田となると、ちょっとした軽口であっても、腹の底から出てきたような凄味と悲しみがある。しかし、前田はそれでも松坂を殺すために刀を研ぐだろう。
 野球の神様、どうか前田智徳松坂大輔がしびれるような場面でぶつかるようご配慮ください。でも、決して前田の勝ちは祈りません。私が神に祈ろうが、前田その人に祈ろうが、前田はバットを振るうだけなのです。私はその一振りが見たい。どうか、神様、それと、前田の私服が案外カジュアルなのに驚きました、神様。