『義経』の感想

 メタモルフォシスと聞いて、皆さんは何を想像なさるだろうか。ある人は、フランツ・カフカの『変身』を思い出されるかも知れない。しかし、私の場合は、他ならぬ大河ドラマの一シーンを思い出すのである。「ある朝目覚めたら、巨大な毒虫になっていた」、というのも大変な「変身」のシーンには違いない。しかし、私が思い浮かべるのはさらに恐ろしい「変身」である。それは、ジャニーズ風の美少年が、顔の包帯を取ったら西田敏行になっていた、というものである。私はそのシーンを見たとき腰を抜かすほど驚いた。「いくらジェームズ三木脚本とはいえ、大河ドラマはなんでもありなのか」と。これが今後百年大河ドラマの歴史に語り継がれる「包帯を外したら西田敏行事件」である。
 さて、肝心の『義経』の話をしよう。私は正直なところ、見ようか見まいか迷っていたのである。しかし、本当の主役が出るまでは、すなわち、神木隆之介滝沢秀明にメタモルフォシスするまでは見ようと思ったのである。このような「変身」であれば、制作者も何度だってやりたくなるのではないか。そんなわけではあるまいが、予告編で流れていた「森の中を走り抜けたら滝沢君」ではなく、実際の所は「川に飛び込んだら滝沢君」というシーンであった。さらに正直なところ、もう二、三回くらいは神木君でもよかったんじゃないかとも思ったが、まあ別によかろう。
 そんなわけで、「脇を固める役者は役者揃いだな」と思いながらも、特に感想はない。ただ、次は「せっかくだから弁慶が出るところまで観るか」という気にもなっている。予告シーンの松平健を見て、役者ではなくコメディアン、いや、「マツケンサンバの人だ」という目で見てしまったのだ。そんな弁慶どんな弁慶? 気になるじゃないですか。これではもう、NHKの思うつぼである。いったいどこまで私の興味をひくつもりなのか、朝日新聞社以上の熱意を以てNHKと戦うつもりである。どうなったら勝ちなのかよくわからないけれど。
 あ、そういえば、土曜日に義経ゆかりのというか、義経ど本命の鎌倉に行って来たのだ。しかし、行ってきたのはいいけれど、ぜんぜん大河ドラマ義経』臭はなかったような気がする。思いがけず皇太子様が来たとかいうのはあるけれど、いや、ほんとにあんまり記憶がない。そういえば、『新選組!』の本編の後の旧跡紹介で、池田屋跡がパチンコ屋になってていかがなものかと思ったものだけれど、鎌倉幕府政所跡地はマンション(こんな感じ。しかしHitsってのは何だ?ハイツのことか。意味的に和製でも、せめてheightsにすべきじゃないのか?)でした。あんまり人のことは言えなかったですね、元鎌倉市民としては。