ディック傑作集『パーキー・パットの日々』フィリップ・K・ディック

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 もし、もっと大ぜいの人がディックの作品を読めば、わたしがああいう世界に住まなくてすむ可能性が、それだけ強くなるのではなかろうか……。―ジョン・ブラナー

 買ってしばらく放っておいた短編集。なぜ放っておいたのか?俺にとって短編集というのは不思議な存在だからだ。どんなに好きな作者のものでも買う気が起こらず、買ったところで読み始める気がなかなか起こらないのだ。けれど、長編と短編で無理にでもどちらかを選べと言われれば、短編を選ぶだろう。なぜか読み始めるモチベーションが低い、そんな存在なのだ。
 で、ディックの短編集。『ザップ・ガン』や『流れよ我が涙〜』あたりからディックを読み始めた俺にとって、ディックは破綻するあたりが妙味だという認識が初めはあった(id:goldhead:20040928#p1)。もっとも作者最後の方の長編はそんなことなかったのだけれど、短編で本領発揮という印象も強い。そして、この初期の作品を集めたであろう『パーキー・パットの日々』も同様であった。どれもグッとその世界にこちらを引き寄せ、のめり込ませ、パッと突き放す。まさに‘テン良し中良し終い良し’の出来映えだ。今でもこういった短編の中から映画が作られていくことも納得できる。
 もっとも、こういったディックのSFらしいSFの短編集が、果たしてSF全体から見てどの程度のものなのかは良くわからない。なにせ、俺はそれほどSFファンというほどでもないし、入口がカート・ヴォネガットの『チャンピオンたちの朝食』なのだから、脇道から入ったもいいところである。ただ、ヴォネガットやディックが描く薄ら寒い終末、アンチ・ユートピアに惹かれるのは確かだ。そして、そういった世界そのものについてそれほどまでに真剣に向き合う部分が好きなのだ。もちろんそれはSFの魅力の一部分に過ぎないだろう。そして俺は、まだまだ読むべきSFがあると思うと、そこら辺まだまだこの世界も捨てたもんじゃないと思うのだ。