もっとも訴求力のあるもの

 チラシ、ポスターの類は我々に目を向けようと躍起になっている。中にどんな情報があろうとも、見てもらえなければ存在しないのと一緒だからだ。しかし、そんな中で、華美な色合いもすぐれたデザインもなく、我々が目を向けずにはいられないものがある。それは、手書きの貼り紙だ。そんなものを最近二つほど見た。


 一つ目は、相鉄の横浜駅で見かけたもの。「亡き父の型見品」(原文ママ)を落としてしまった、おそらくそれなりにお歳を召したご婦人の呼びかけだ。まったく心当たりなど無くとも、【五十万円】という金額には何かそわそわしてしまう。ちなみに、モザイク処理の下には携帯電話と思われる番号と、苗字が書かれていた。振り込め詐欺の類が跋扈するなか、何か心配にならないでもないけれど、形見の品となればそれどころではあるまい。お心あたりの方は、現地まで行って連絡してあげてください。


 二つ目は寂光院龍口寺(http://www.ryukouji.com/)にて見かけたものである。敷地内にある水を掛けてタワシで磨く類の仏像の脇にある賽銭箱に貼ってあった。あえて引用しよう。

この中にお金を入れるとすべて
賽銭泥が持って行くだけです
大堂の賽銭箱に入れて下さい

 「賽銭泥」の三文字が他の字よりも一回り大きく書かれていることに注目されたい。改行のポイントも含め、ここを強調したいのは一目瞭然だ。すなわち、賽銭泥への警告に他ならない。しかし、「賽銭泥棒をやめろ」と率直には言わないあたりが仏門のとるべき方法であったのだろうか。そして、お賽銭を入れようとした人へのサポートも三行目でばっちりだ(この日は大堂の扉が閉まっており、結局賽銭は入れられなかったが)。お心あたりの賽銭泥の方は、いくらこの寺院が「日蓮聖人四大法難随一」の場だからといって、これ以上法難を与えないようお願いします。